感染防止へSNS発信に注力 コロナ禍の選挙戦

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 東京都知事選挙(7月5日投開票)は終盤戦を迎えている。立候補者が22人と過去最多の今回、新型コロナウイルス感染拡大防止のため候補者らは遊説場所を公表せず、インターネット交流サイト(SNS)でのライブ配信に注力するなど異例の選挙戦となっている。現職の小池百合子氏(67)が優位を固める中、宇都宮健児氏(73)を支援する立憲民主、共産、社民の野党3党と、自ら代表を務めるれいわ新選組公認の山本太郎氏(45)が来る衆院選を視野に総力戦を繰り広げている。
(政治部・岸元玲七)

東京都知事選挙 終盤
小池氏 余裕の戦い 宇都宮氏・山本氏は総力戦

東京都知事選を1週間後に控え、候補者の演説を聞く有権者ら=28日午後、東京・銀座

東京都知事選を1週間後に控え、候補者の演説を聞く有権者ら=28日午後、東京・銀座

 「コロナで困っている都民、事業者の生活の底上げをする」。れいわ公認の山本氏は26日、気温30度近くなった正午、JR錦糸町駅前で大粒の汗を流しながら訴えた。駅前の広場には会社員や主婦など約200人の人だかりができていた。

 山本氏は新型コロナを災害指定し、都債発行で総額15兆円を調達して都民に10万円給付と中小企業のマイナス分を補填(ほてん)、授業料を1年間免除する公約を打ち出している。「コロナ損失の補填は国がやらないなら都がやるしかない。東京で挑戦させてほしい」と声を上げると、聴衆からは大きな拍手が起こった。

 現職の小池氏は、コロナ対策として「3密」を避けるとの理由で、「リモート選挙」を展開し街頭演説は行わない。しかし、都内感染者数の発表とコメントで毎日テレビに顔を出すなど現職の強みを生かし、自民・公明の支持層にも食い込んで余裕の戦いを見せる。

 小池陣営は、ツイッターやフェイスブックなどSNSで公約や実績をアピールする動画を70本以上投稿。都民から募集した質問にライブ配信で答え、29日には災害時のコロナ対応について「避難所のソーシャルディスタンスを保ち、避難施設の確保と拡大、情報提供の準備を進めている。命を守るための災害対策を都民と共に進めていく」と強調した。

 元日弁連会長の宇都宮氏は28日、銀座4丁目交差点で街頭演説を行った。若者がほとんど見られない聴衆を前に宇都宮氏は「雇用、住まい、生活を守っていく。経済効率性より都民の命を守る」と訴えた。続けてPCR検査態勢の拡充、都立・公社病院の独立行政法人化中止を主張。「誰一人取り残されない都政を実現する」と強調すると、聴衆から「けんじ」コールが沸き起こった。

 同日の遊説には、立憲の枝野幸男代表、共産の志位和夫委員長らに加え、野田佳彦前首相も駆け付けて応援演説を行った。野田氏は「志位さんから『右バッターがいないから頼まれてほしい』と言われて引き受けた。宇都宮さんは地味だが、100年後を見据えた東京改造の担い手だ」と語り、その場を大いに盛り上げた。

 立憲は当初、山本氏を野党統一候補として擁立しようとしたが、山本氏の求める「消費税率5%」などの条件が合わず、同氏はれいわから出馬。立憲は独自候補の擁立を断念し、宇都宮氏支援を決めた。枝野氏は「国政選挙並みに総力を挙げる」とも表明した。

 一方、国民民主は自主投票となり、野党連携は実現せず、立憲、国民の支持母体である連合も小池氏支持を表明。そのため、山本氏と宇都宮氏の間で反小池票の奪い合いが起こっている。枝野氏は次の衆院選を見据え、野党共闘の主導権を保つため、連日幹部を投入。宇都宮氏が山本氏の後塵(こうじん)を拝する場合、枝野氏の求心力低下は避けられないためだ。

 選挙戦最後の日曜日となった28日夜、東京都青年会議所主催の政策討論会には、小池氏をはじめとする主要候補者が揃(そろ)い、初めて対面で討論した。そこでも宇都宮氏と山本氏がコロナ対策費の財源をめぐって熱い論争を繰り広げた。宇都宮氏は、自身のコロナ対策費3兆円の根拠を示す一方で、山本氏が掲げる対策費15兆円の調達方法を法律・条例などを基に批判。これに山本氏が同じく条例等を基に反論して熱気を帯びた応酬となった。

 一方、元熊本県副知事の小野泰輔氏(46)は、コロナ対策をした上で経済活動を継続し、地震や災害に強い多極分散型の「新しい東京」を掲げる。27日の秋葉原では黒く日焼けした顔を見せ、「アラートで危機をあおるのではなくコロナと戦って挑戦する。(候補者の)実績を見極めて決めてほしい」と、行政での実務経験と若さをアピールした。NHKから国民を守る党代表の立花孝志氏(52)は、コロナ対策について「働く世代や学生は死亡率が低い。自粛する人としない人を分け、経済は止めない。損害には実態に見合った補填をする」と主張している。