「令和元年東日本台風」被災から9カ月―千曲市長 岡田昭雄氏に聞く
千曲市長 岡田昭雄氏
2019年10月12日の台風19号による千曲市の被害は千曲市の歴史にとって忘れ難い爪痕を残した。あれから9カ月。復旧と併せて水害防止への取り組みについて、岡田昭雄・千曲市長に聞いた。
災害に1000年耐える河川を
積極的に避難勧告
市民が満足する故郷目指す

千曲市長 岡田昭雄(おかだ・あきお)
昭和26年、千曲市生まれ。昭和45年4月、更埴市職員採用。総務部秘書広報課長、議会事務局長、総務部長、千曲市参与などを経て、平成24年11月千曲市市長に。現在2期目。
復旧の状況を、数字など挙げて説明してください。
千曲川の霞堤の開口部から洪水が流れ込んだことで、約220ヘクタールの広さで浸水被害が発生し、50センチから1メートルぐらいの床上・床下浸水の被害が1677戸でした。幸い全壊・半壊の家屋の修繕も進み、残りはわずかです。
大正7年、国が千曲川の堤防の改修事業に着手し、これまで千曲市は安全な町でした。
新潟県では信濃川と呼ばれる千曲川は、長野県内では約214キロ。この川が千曲市辺りで大きくカーブを切るのですが、内水(堤防より住宅地側の堤内地にたまった雨水)を千曲川に流し込む市管理のポンプ場があり、サイホンの原理で排水する構造で出来ています。これが国の基準で5メートルを超えると稼働できない仕組みとなっています。
これは、すべての水を千曲川が受けたら、下流であふれてしまうからです。ところが昨年の台風の際の最高水位は6メートル40センチを記録。堤防のぎりぎりまで水位が上昇しました。氾濫危険水位5メートルを超えたのは60年ぶりのことでした。
また、昭和30年代半ばから川砂利をさらうことができなくなり、堆積物が長い期間を経て、川底にたまったことも氾濫の要因だったとみています。
市長ご自身、この被害を目の当たりにして一番つらかったことは。
市の中心市街地が220ヘクタールの広さで冠水する様子を上空から見たら驚きますよ。新庁舎がスタートしてわずか1カ月のこと。庁舎に出入りしたくても、辺り一面水浸しで中に入れない状況もありました。幸い、地域の協力体制で、死者・行方不明者がおられなかったことは良かったと思います。千曲市は県内でもいち早く明るいうちに避難勧告を出し、行動したことが功を奏しました。
同じような被害が起きないためには、千曲川の川底をさらう作業が不可欠のようですが、順調に進んでいますか。
河川管理は国土交通省ですが、「信濃川水系緊急治水対策プロジェクト」により、国や県、市が連携して、令和9年度を目標に浸水被害防止の計画を立てて進めています。
河道掘削は重要なプロジェクトの一つです。ただ、川の堆積物を処分する場所の確保も必要です。
さらに千曲川の内側(堤外地側)に市民が所有する畑(民地)があるのです。堤防築造などのため行政が買い取った土地もありますが、残っている民地が多くあり、河川行政を進める上では、これも大きな課題です。
やはり、この度の水害を教訓に、一千年耐えられる河川を造るためにも民地をどうするのか考えなくてはなりません。ダムを造る以上の膨大な予算と時間がかかるでしょうが、市民の命を守るためです。
「50年に1度、100年に1度」という表現の大型の災害が毎年のように起きています。
そうです。以前は、上流で降った雨が2時間半後に到達したものが、今は1時間で着いてしまうとか。今年7月上旬、九州豪雨で63人の犠牲者が出ましたが、大量の雨が一気に襲う気象状況には十分注意が必要です。毎年のように起きる全国各地での水害は政府レベルで抜本的に対処してもらわないといけません。
河川管理は、どこか一部だけが安全というのではいけないのです。367キロの千曲川・信濃川は途中、多くの市町村を通過します。その全体管理となれば、国の役割が重要です。
千曲市も独自で、先の豪雨災害の検証・分析を進めています。上流での水位・雨量を的確に把握できれば、何分後に市内に水が到着するか。その際、避難勧告をどの時点で出すのがベストかを精査。30分早く避難勧告を出せたら、それで救われる命があるのです。無駄になっても勧告を出す、その心構えです。
さて、コロナ感染問題で、千曲市は現時点で感染者ゼロとお聞きしています。原因は何だとみていますか。
発症当時から、マスク着用や手洗いなどを徹底しました。隣の長野市には歓楽街がありますが、千曲市は温泉街。夜の行動が少なかったことも要因でしょうか。自分の市から感染者が出ないかと毎日、緊張の連続です。
ただ、自粛が続き、会社経営者などの被害は見過ごすことができない事態です。
自粛が1カ月続くと大変です。特に観光業は死活問題で、4千人のキャパのある温泉街にお客さんが一人も来ないのです。飲食店も同じです。市としては国や県が動く前から、コロナ収束後を視野に、すべての飲食店でコロナ対策に着手しました。奨励金を出して、テイクアウトや室内の飲食スペースの席を空けるなどして、「3密」を避ける環境を用意してもらいました。臨時の出費が7億円ほどでした。
ほかの自治体では、プレミアム商品券を出す所もありますが、自分は疑問に感じています。金券なので偽造防止などで銀行と連携する必要があります。あるいは、商店街の登録などで2、3カ月かかり、遅過ぎます。さらに換金まで時間を要する。これでは資金がショートしてしまいます。
千曲市では若い職員から、キャッシュバックという提案が出てきました。市内の旅館ホテル、飲食店、タクシー、指定店を利用した千曲市民に6月いっぱい、最大2000円をキャッシュバックするというものです。これは投じたお金の6、7倍の経済効果があります。手数料もゼロ、即効性もあります。大変好評でしたので、これを拡大したいと思います。
市の運営を預かる立場としてのポリシーは。
市町村は末端の細胞だと思っています。ここが活性化すれば、日本全体が元気になると信じています。
「市民満足度の高い町づくり」が市長としての私のゴールです。毎年、市民の満足度調査を、医療・安全・教育・福祉・観光・情報など30項目以上で実施していますが、幸い、多くの項目で満足度アップという結果が出てホッとしています。引き続き、市民の方々に喜んでもらえる千曲市づくりに努力したいと思います。がある。






