反中感情増すインド、米に傾斜


国境紛争で中国に辟易
米GAFAが積極投資に動く

 新型コロナ禍で苦しむインドは、それにつけ込む形で北部国境に侵攻してきた中国に辟易(へきえき)し、対中関係のスタンスを変えようとしている。

 かつては21世紀のIT(情報通信)時代を、ハードに強い中国とソフトに強いインドが提携し、牽引(けんいん)しようとの思惑もあったが、米中新冷戦が進行する中、軸足を変えつつある。(池永達夫)

中国の携帯アプリ削除を呼び掛けるインドの反中国デモ=6月30日、ニューデリー(AFP時事)

中国の携帯アプリ削除を呼び掛けるインドの反中国デモ=6月30日、ニューデリー(AFP時事)

 米印関係の雰囲気がガラリと様相を変えたのは今年の2月だ。トランプ大統領がインドを公式訪問し、モディ首相との会談で新たなエネルギー供給や武器の売買で合意した。直後にインド政府は小売業の外資規制を緩和し、お返しする形で米アップルはインドの直営店開設表明を行っている。

 さらに米グーグルは今月、インドのモディ首相に対し、今後7年間で約100億ドル(約1兆700億円)の投資を約束した。同社の強みを活かした人工知能(AI)を医療や教育、農業などに活用していく方針だ。また、検索などのサービスもヒンディー語などインドの多言語に対応させるという。実現すればエリートが牽引するIT国家インドの底辺が広がり、潜在的な底力が強化される。

 米グーグルが海外投資としては異例規模の大金をインドに投じようとする背景には、中国マーケットに掛かり始めたハイテク摩擦の暗雲がある。次の成長ステップの橋頭堡(きょうとうほ)として、13億人の中国マーケットに代わる市場規模を持つインドが有力視されているからだ。

 モディ政権としても、新型コロナ拡大を防ぐための外出禁止令などで今春の失業率が23・5%と急上昇するなど経済が打撃を受ける中、「渡りに船」のタイミングだ。

 こうしたことが点ではなく、面としても動き始めている。フェイスブックは、インドの大手財閥リライアンス・インダストリーズ傘下の通信会社に57億ドル(約6100億円)出資し、電子商取引(EC)分野で共同事業を進める。また、アマゾン・ドットコムは今後5年間でインドの中小企業に10億ドルを投資する。以上のGAFAと呼ばれる米巨大IT4社が対印投資に積極的に動いている。

 一方でインドは中国を締め出そうとの動きがある。1カ月前には動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」など中国系企業が手掛ける59アプリを禁止した。

 この禁止措置は、北部国境のジャンムー・カシミール州ラダックで起きた6月の武力衝突がきっかけだったが、中国アプリのプライバシー侵害をめぐる疑惑は何年も前から高まっていた。3年前にも、インド軍はスパイウエアに感染している疑いがある42の中国アプリを削除する指示を出していた。

 なお、第2次世界大戦後に独立を果たしたインドは当初、非同盟を外交政策として選択し、中国との連携も考慮した時期があった。

 だが1962年、チベットのダライ・ラマの亡命を受け入れたインドに対し報復する形で中国は牙をむき、中印戦争が勃発。武力に劣るインドは手痛い被害を被った。

 それでもインドは、懐の深い大人の付き合いを中国とやってきたが、力の真空地帯が発生するとすかさず軍を動かす中国はやっかいな相手だった。

 3年前にはブータン西部のドラクム高原に侵攻してきた中国人民解放軍と衝突があったばかりだが、今年6月のカシミールでの衝突では20人以上のインド兵士が犠牲になった。

 「政権は銃口から生まれる」との毛沢東ドグマをベースにした覇権国家志向の中国を相手にするには、米国を引き入れたカウンターパワー形成の必要性に迫られたインドの地政学的事情も後押ししている。