軍命説の誤り認めた谷川氏 、『うらそえ文藝』で真実知る

歪められた沖縄戦史 慶良間諸島「集団自決」の真実
上原 正稔 (43)

 2009年5月、『うらそえ文藝』という年1回発行の文芸誌が慰霊の特集を組んだ。それは全国的な反響を呼び、売り切れとなった。だが、沖縄では沖縄2紙は一切、報道しなかった。

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『うらそえ文藝』14号に掲載された星編集長と上原氏の対談

 34ページの特集記事を執筆したのは、『うらそえ文藝』編集長で沖縄県文化協会会長の星雅彦氏と上原正稔(筆者)の2人だった。その内容は、慶良間の“集団自決”について「隊長命令」を完全に否定したもの。その頃、沖縄タイムスと琉球新報は、タイムス発行の『鉄の暴風』のデタラメな記述をそのまま鵜呑(うの)みにし、報道を続け、赤松嘉次、梅澤裕両隊長を悪者に仕立て、その責任は非常に重いと断じていた。

 同年6月9日、星氏と上原は県庁記者クラブで緊急記者会見を開いた。その会見の模様を14日付「世界日報」、7月5日付「サンデー世界日報」が詳細に報道した。

 星氏は、東京の友人に『うらそえ文藝』14号を数冊送った。友人はそのうち1冊を沖縄文化に造詣(ぞうけい)の深い民俗学者の谷川健一氏に届けたところ、以下のような手紙を星氏に間接的に送ってきたのである。

 <『うらそえ文藝』ありがとう存じます。星雅彦氏は旧知の間柄で1969年から1970年、71年頃に何度もお会いしたことがあります。復帰後は交流も絶えましたが、沖縄の集団自決についての星氏と上原正稔氏の小論文、並びに両者の対談を読み、納得するところがありました。私は全面的に御両人の意見に賛意を表します。(中略)

 それにしても自決問題に違法の補償問題が根底にあることを知り、その事件の裏の真実が奈辺にあるのかがはじめて分かりました。これはとくに上原氏の勇気ある発言に感謝しなくてはなりません。星氏も『うらそえ文藝』の編集に勇気を以って臨んでいます。どうか、おついでの折、星氏ならびに上原氏に私の感想をお伝え下さい。それと共にご両人の勇気ある発言に深く敬意を表する旨を御伝えいただければ幸いです。>

 この手紙は谷川氏の星氏に対する謝罪でもあった。それにしても谷川氏は立派だ。いわゆる「大江・岩波」裁判一審、二審で「大江・岩波」側が勝訴した中で真実を認めた「勇気ある文化人」は谷川氏だけだ。谷川氏は2013年、逝去された。