ヤエヤマセマルハコガメなどの希少動物を絶滅危機から守れ
沖縄県石垣市で勉強会「南西諸島の生きものたちの未来」
九州南端から日本最西端の与那国島にかけて連なる南西諸島には、国際自然保護連合(IUCN)が発表する「絶滅の恐れのある種のレッドリスト」に挙げられている固有種が多く存在する。環境省職員や環境専門の学者らがこのほど、石垣市で固有種の絶滅を避ける方策や外来種駆除の在り方について学ぶ機会があった。(那覇支局・豊田 剛)
「駆除に対する正しい教育を」、外来種による生態系影響を懸念
温帯と亜熱帯の気候を併せ持つ南西諸島は、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコ、アマミノクロウサギなど、世界有数の固有種・亜種の宝庫だ。
政府は、西表島を含む南西諸島4地域(奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島)を世界自然遺産に推薦する準備を進めていたが、6月1日、推薦を取り下げた。評価基準である「生態系」「生物多様性」がいずれも基準に合致していないと評価されたからだ。
登録に必要な要件の一つは、外来種対策を含む固有動植物の保護だ。世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)が5月23日に発表した報告書「南西諸島固有の両生類・爬虫類のペット取引」によると、両生類・爬虫(はちゅう)類の67種・亜種のうち約半数が国内外の市場で活発に取引されている。違法捕獲による取引の背景には、希少な野生生物への需要があるという。
こうした報告を受け、WWFジャパンはこのほど、石垣市の環境省国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターで生き物トークカフェ「南西諸島の生きものたちの未来―人による利用と影響―」と題する勉強会を開いた。WWFジャパン職員、環境省職員、学識者らが現状報告。固有種の違法取引と外来種が固有種に与える環境影響が主な議題となった。
WWFジャパンとIUCNの共同事業で、野生動植物の取引を調査・監視するトラフィックジャパンの若尾慶子さんは、絶滅危惧種の多くが海外で高値で取引される現状を説明した。中でも、「ヤエヤマセマルハコガメ、サキシマカナヘビなど沖縄の希少生物には人気がある」が、違法取引をどのように規制し、罰則を加えるのか、意見が分かれるところだという。
兵庫県立大学自然・環境科学研究所の太田英利教授は「琉球列島の島嶼性は多くの貴重な固有生物を生み出している」と指摘。その一方で、「外来種が生態系を変えたり、野生生物が外部へ流出して雑種化したりすることによって純系の固有種が喪失してしまう」現状を憂えた。
グリーンイグアナなど外来種の駆除を中心に八重山の自然環境保全活動を行う「八重山ネイチャーエージェンシー」の高木拓之会長は、雑草駆除目的で沖縄に持ち込まれたアメリカハマグルマは、強過ぎて月桃、ウコンなどの植物を駆逐してしまうと説明。「外来種がすべて悪さをするわけではない」と付け加えた上で、大量繁殖して手遅れになる前に駆逐することの重要性を訴えた。
質疑応答の時間には地元の児童生徒らから活発な質問が飛び交った。石垣市の小学生は、「外来種だからといって生き物を殺してもいいのか」という素朴な質問が投げ掛けられた。高木氏は「生き物の命を奪うのは心苦しい」とした上で、「人為的に入れたものは人間が駆除する以外にない」と述べ、譲渡が禁止されていることも説明。学校で生き物をテーマにした授業が少な過ぎると苦言を呈した。
太田氏は、「仏教の教えでは生き物を殺すことが禁じられている」が、「キリスト教は人と生き物を明確に区別している」と説明。「外来種を持ち込んだ人間が悪いのは当たり前で、だからこそ責任を持って駆除する」と強調した。また、沖縄でマングースを捕殺していた時代、学校から「殺してはいけない」「差別してはいけない」と苦情がたくさん寄せられたことを例に挙げ、外来種駆除については、「文科省が教育の現場と連携して、正しく理解されるようにしてほしい」と訴えた。