韓国親北派の“北詣で”急増
経済支援や「反日」連帯へ
韓国の親北朝鮮派による訪朝が堰(せき)を切ったように増えている。南北・米朝首脳会談で広がった融和ムードを機に各種組織・団体に対する政府の訪朝許可が相次いで下りたためだ。ただ、過去に見られた一方的な経済支援やうわべだけの平和が再現されるのではないかと危惧する声も出ている。
(ソウル・上田勇実)
南北・米朝会談が追い風に
独自制裁「死文化も同然」
ロシアや中国など北方諸国との経済協力を模索する大統領直属「北方経済協力委員会」の宋永吉委員長は先週末、1泊2日で北朝鮮の羅先(旧羅津・先峰)地域を視察した。ここは90年代初めに北朝鮮が改革・開放を標榜(ひょうぼう)して外資誘致を試みた経済特区だったが、劣悪なインフラや政治的リスクなどで事実上、構想は頓挫した。
韓国政府は否定しているが、今回の訪朝は一昨年に中断された隣国ロシアのハサンとの物流プロジェクトを再開させるための準備だとする観測が出ている。
もともとこのプロジェクトは朴槿恵前大統領の北朝鮮政策「ユーラシア・イニシアチブ」の一環で、ロシア産石炭を2013年に補修されたハサン・羅先間の鉄道で羅津港に運び込み、そこから船で韓国に輸出するという韓国・北朝鮮・ロシアの三角経済協力事業。韓国がロシアに支払う石炭代金と運送料の一部が北朝鮮に渡る仕組みになっていた。
これに先立ち韓国の親北系市民団体「6・15共同宣言実践南側委員会」は先月20日から23日、2000年の南北首脳会談とその時に発表した共同宣言から18年になるのを記念して平壌で開かれた会議に出席するため訪朝した。
同委員会は今年2月の韓国・平昌冬季五輪で露骨な親北反日行為をしたことで知られる。アイスホッケー女子予選の日本対南北合同チームの試合会場で政治色が濃いという理由で組織委員会から使用禁止されていたはずの竹島(韓国名・独島)入り統一旗を大量に配布し、物議を醸した。

今回の会議では南北統一への取り組みが確認されただけでなく、来年の3月1日が日本統治下で起きた独立運動の日から100年を迎えることを受け「民族共同行事を盛大に開催」し、朝鮮学校の教育無償化に向け「強力に対応」することなどで合意するなど「反日」連帯も鮮明にさせた。
会議には韓国二大労働団体の一角を成す韓国労働組合総連盟(韓国労総)の幹部も参加し、それをきっかけに来月ソウルで南北労働者統一サッカー大会が開かれることになったが、主催者団体の一つである全国民主労働組合総連盟(民主労総)が北朝鮮の朝鮮職業総同盟とすでに合意済みだという徴用工像の平壌設置計画にも弾みがつくとみられている。
北朝鮮に融和的な文在寅政権の下、許可が下りるのを待ち続けていた親北派は訪朝が実現し水を得た魚のようだが、今回、ケーブルテレビ局JTBCが文政権発足後、報道機関として初めて訪朝を許可され、関心を集めている。
JTBCは報道局長ら8人が今月9日から12日に訪朝、南北言論交流や同局の平壌支局開設などについて話し合ったという。公共放送であるKBSや基幹通信社の連合ニュースなどを尻目にJTBCが訪朝第1号となったことに業界は少なからぬショックを受けているようだが、それだけJTBCが北朝鮮に気に入られる保守叩きや対北融和の論陣を張ってきた証拠とも言える。
ちなみにJTBCは朴前大統領の国政介入事件を裏付ける決定的証拠とされたタブレットを暴露し、その後の朴氏に対する弾劾・罷免・逮捕と文政権誕生に貢献、大統領選の中継ブース設置で厚遇された、文政権にとっては「一等功臣」の報道機関だ。
だが、親北派による一連の“北詣で”は北朝鮮非核化の道筋が見えない現段階では韓国側が一方的に申し出る「前のめり訪朝」と言える。特に北方経済協力委については「北に事実上貢ぐ名分を探す委員会だ」(北朝鮮問題専門家)という辛辣な批判も聞かれる。
国際社会の制裁を回避したい北朝鮮に経済的なメリットを与えたり、平和ムード醸成で制裁が緩和されればそれこそ北朝鮮の思う壺(つぼ)。北朝鮮に独自制裁を科す韓国にとっても「(独自制裁に明記された)国民の訪朝不許可の規定は死文化されたのも同然」(韓国紙朝鮮日報)の状態だ。






