NATO防衛費増額圧力は正論
米コラムニスト マーク・ティーセン
民主党は大統領非難
実戦能力ない同盟国
トランプ大統領が、共通同盟に十分な予算を投じないことは北大西洋条約機構(NATO)のためにならないとドイツなどの同盟国に警告する一方で、米国の民主党はドイツを擁護した。民主党のシューマー上院院内総務とペロシ下院院内総務は共同声明で、「トランプ大統領が、米国の忠実な同盟国であるドイツを露骨に侮辱し、中傷したことは、恥ずべきことだ」と訴えた。
残念ながら正しいのはトランプ氏だ。恥ずべきは、欧州の中でも非常に豊かな国でありながら、国防に国内総生産(GDP)の1・24%しか投じていないドイツの方だ。NATO加盟国の半数が同じような状態だ。米国は、軍事費にGDPの3・5%を費やしている。
マッキンゼー・アンド・カンパニーの研究によると、ドイツの戦闘機ユーロファイターとトーネードの60%、ヘリコプター、シーリンクスの80%は使用できない状態にある。ドイチェ・ウェレによると、ドイツ議会の調査で「2017年の末時点で、潜水艦、空軍の14機の大型輸送機のすべてが、修理のため稼働できなかった」ことが明らかになり、「国防相の文書で、ドイツ兵は、主要なNATOの任務に参加するために必要な、十分な防弾ベスト、防寒着、テントを持っていなかったことが明らかになった」。テントも十分にないのだろうか。
◇パイプライン新設
NATO加盟国としての約束を果たすには、ドイツは、さらに年間280億㌦の軍事費を投じる必要がある。軍事費増額は難しいようだが、天然ガスを手に入れるためにロシアに送る資金はあるようだ。NATOはロシアに対抗するために創設された機関だ。その上、ドイツが建設を支援している新パイプラインは、ドイツと東欧の同盟国をロシアに対して脆弱にするものだ。
ドイツだけではない。NATO本部があるベルギーの防衛予算は、GDPのわずか0・9%で、そのわずかな防衛予算の3分の1が年金に費やされている。欧州のNATO同盟国の兵士は約180万人だが、展開可能なのは3分の1に満たず、継続的に展開できるのはわずか6%だ。
トランプ氏がNATOは「遅れている」と言ったのは正しい。その通りだ。
これは今に始まったことではない。私は2001年9月11日に国防総省にいた。アフガニスタンに対し軍事行動を取ることになった時、「不朽の自由」作戦の重要な初期段階に作戦に参加できる戦闘能力を持っていたのは同盟国のほんの一部だけだった。02年のNATOプラハ首脳会議で同盟国は、GDPの少なくとも2%を防衛費に投じ、もっと効果的な機能に資金を投じて、この問題に対処することを約束した。だが、欧州の同盟国の防衛予算は00年~04の1・9%から5年後には1・7%に低下、さらに15年までに1・4%にまで低下した。
◇同盟国「ただ乗り」
9・11から10年後、NATOがリビアに介入した時、ワシントン・ポスト紙が「リビアで紛争が始まって1カ月足らずで、NATOは、精密誘導弾が不足し始め、英国、フランスなどの欧州各国は、比較的小規模な軍事行動を維持することすら困難になっていた」と報じたのには驚いた。ロシアの侵攻を阻止することを目的として設立された同盟が、ロシアよりはるかに弱い敵に限定的な空爆を継続することもできない。
オバマ大統領は、NATO同盟国を「ただ乗り」と言い、ブッシュ大統領(子)は、同盟国に「防衛費の増額」を求めたものの、どちらもほとんど効果はなかった。しかし、トランプ氏が昨年、NATOの同盟国を防衛することを決めた第5条の順守をすぐに認めなかったとき、NATO同盟国は、防衛予算を120億㌦増額することで合意した。だが、焼け石に水だ。マッキンゼーの試算によると、同盟国が約束を果たすには、毎年、1070億㌦を追加する必要がある。前任者らが優しく要求してもだめだったから、トランプ氏が強く要求した。12日には目標を2倍の4%にすることをほのめかした。
ロシアへの贈り物だという批判があるが、それは違う。プーチン大統領が一番嫌がるのは、トランプ氏が、NATOの防衛予算増額に成功することだ。同盟国が、ロシアに対して厳しく対応することに不安を感じるなら、いい方法がある。ロシアの侵攻を阻止し、自国を守るために必要な能力をNATOが備えることだ。
トランプ氏の強硬路線は、NATOを軽視しているためでもない。NATOは役立たずだと思っているなら、NATOのことにかかわってなどいない。しかし、同盟国が、防衛予算を増額せず、実際に役に立つ軍事力を持てるようにしなければ、NATOは役立たずになってしまう。同盟の一国が攻撃を受けたり、軍事介入の最中に弾薬が尽きてしまったりしたときに、実際に戦闘に参加できない同盟は、文字通り役立たずだ。
NATOには厳格な愛情が必要だ。トランプ氏はそれを注いでいる。トランプ氏のおかげで、結果的にNATOはいっそう強くなる。
(7月13日)






