日本版「台湾関係法」制定を

エルドリッヂ研究所所長、政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ

ロバート・D・エルドリッヂ

中国の軍事侵略阻止へ
法に基づき海洋の自由守護

 過去1年間、特にここ数週間、世界は北朝鮮に注目したが、東アジア地域のもう一つの重要な課題は自由、民主主義、豊かな国家である台湾をどう位置付けるかということだ。台湾は海峡の向こう側の隣国、中国から強い圧力を受けている。習近平国家主席は、台湾を含めた地域で中国覇権の主張を模索すると同時に、独裁的支配を強化している。

 人口2300万人強のこの小さな島への締め付けは強まっているが、国民のほとんどが台湾人としてのしっかりしたアイデンティティーを持っている。にもかかわらず、習主席は中国人民解放軍に2020年までに台湾を取り込むよう命じている。わずか2年後の話だ。

 ドナルド・トランプ米政権が17年1月に誕生して以来、台湾との関係に変化が生じていることは明らかだ。それは、トランプ大統領が誕生する前の16年12月、同年5月に就任した蔡英文総統と電話会談したことからも分かる。

 米政府高官の台湾訪問を認める新法が3月、両院を全会一致で通過、トランプ大統領が署名した。発効の数日後、国務省のアレックス・ウォン次官補代理が台湾を訪問、中国は「レッドライン」を越えたと強く反発した。引き続き、国務省のマリー・ロイス次官補(教育・文化担当)が6月、米国在台湾協会の献堂式に出席した。

 日本では、第2次安倍晋三政権がスタートした12年以来、台湾との関係に少し変化が見られる。安倍首相も弟の岸信夫衆院議員も熱烈な台湾派の政治家として知られる。公式、非公式を問わず日台間の交流を多く行っている。昨年3月には、赤間二郎総務副大臣が観光プロモーション目的で台北を日帰りで訪問した。過去45年間で、副大臣級の高官が台湾を訪問したのは初めてのことだ。

 これに加え、政府高官ではないが、副総理で財務大臣の麻生太郎派に属する自民党青年局長の鈴木馨祐衆院議員が同月初め頃、台湾を訪問した。また、同年末、鈴木氏は、日台米の安全保障に関する会議に出席するため、台湾に再び渡り、その場で3年以内に日本版台湾関係法で進展があるかもしれないと発言した。

 台湾関係法は1979年2月に制定され同年4月に発効した、台湾との関係についての指針を示す米国法だ。議会は、ジミー・カーター大統領が78年12月31日に中華民国(台湾)との防衛協定を破棄し、国交を断絶したことに反発、台湾関係法を79年1月1日にさかのぼって適用させた。

 対照的に日本は、台湾とは歴史的、地理的、社会的に近いにもかかわらず、台湾との関係を規定する法律がない。中国との外交関係を選択したという点では米国と同じだ。米国はわずか数週間で台湾関係法を制定させたのに、日本は数十年経ってもできない。

 鈴木氏が台湾関係法について発言したのは今回が初めてではない。2013年3月、日本の台湾専門家チームは、独自の台湾関係法を制定させるよう勧告する報告書をまとめた。幸いなことに、安全保障の分野にも言及している。

 この提案書は「日台関係基本法」と呼ばれるもので、日本との関係における台湾の地位を明確にしている。日本は日米同盟を背景に、「力」ではなく「法」に基づき海洋の自由を守るために台湾と協力すべきだと強調。平和的手段以外の方法で台湾の未来を決めるいかなる試みも日本とアジア太平洋地域に対する安全保障上の脅威であり、国に重要な影響を及ぼす問題と認識すると指摘している。

 残念ながら、日本政府はこうした提言について何ら具体的な措置を講じていないようだ。筆者は台湾との継続的な対話と議論をすることを大いに支持するが、今は日本が国内と国際の両面の理由から動く時だ。国内では、親台湾の首相および政権の今が最大のチャンスであり、国際的には、親台湾のトランプ政権が誕生し地域中に理解が広がっており、中国がこれ以上の軍事力を持ち台湾を侵略する前に動くことが必要だ。

 秋の通常国会でこの問題を議論し、法案を通過させることを期待したい。その機は熟している。

 それには、与党内の政治的支持に加え、国民からの理解も必要だ。複数の世論調査によると、台湾が最も尊敬する国は日本で、旅行先としても移住先としても最も人気がある。日本人も台湾を強く尊敬しており、ある調査によると、台湾に非常に親しみを感じる割合は66%、59%がアジアの中で台湾が一番好き、55%が台湾を信頼できると回答している。

 日台の人々は国家的な危機や災害のたびに、励ましや慰めの言葉を交わし、具体的な支援も行ってきた。11年の東日本大震災では台湾は寄付と人材派遣の両面で日本に寛大な支援をし、日本国民が深く感銘を受けた。それ以外にも日本は台湾から多くの善意を受けた。このような関係は、震災以前から続いている。

 このように、日台関係を次の段階に引き上げ、日本版台湾関係法を制定することは適切でタイムリーだ。緊張を高めると批判する人もいるかもしれないが、台湾は自国の一部だとする中国の主張は偽りであり、議論を不明確にし、中国に時間稼ぎさせるだけだ。今や、戦略的な曖昧さを終わらせ、はっきり意思表示すべき時だ。