高校教科書検定、沖縄の記述でまたも波紋

「基地依存」に2大紙など反発

 2017年度から高校で使われる教科書の検定結果がこのほど公表された。沖縄に関する記述では、米軍基地に対する経済依存がクローズアップされ、県内では反発の声が上がっている。一方、沖縄戦における集団自決の記述では各社ともに正確で慎重な表現が見られた。(那覇支局・豊田 剛)

正確さ増した「集団自決」

高校教科書検定、沖縄の記述でまたも波紋

2017年度から主に高校1、2年生が使用する教科書の一部

 沖縄県では、教科書検定ごとに沖縄戦及び米軍基地に関する記述で論争になる。2011年、八重山採択地区で中学校公民教科書に育鵬社が選ばれた際は、地元メディアと革新系労組などが強く反発し、採択地区から竹富町が離脱する事態を招いた。

 今回、高校の社会科教科書の検定をめぐっては、帝国書院の「新現代社会」の中の「沖縄とアメリカ軍基地」と題するコラムに非難が集中。沖縄2大紙が事実誤認だと訴え、革新系団体が訂正と謝罪を求めるまでに発展している。同社はすでに文部科学省に記述の訂正をしたが、「なお誤った認識がある」(琉球新報)と攻撃の姿勢を緩めない。

 琉球新報は「県内の経済が基地に依存している度合いは高い」という記述は事実と異なると主張。基地経済効果は「3000億円以上」で、「政府も事実上は基地の存続とひきかえに、ばくだいな振興資金を沖縄県に支出している」との記述は誤解だとしている。沖縄タイムスも同様に批判している。

 政府も県も、表向きには「基地と経済はリンクしない」と言うが、実際はリンクしていることは明らかだ。島袋吉和元名護市長は、「基地と経済はリンクしていると堂々と主張すべきだ」と訴える。

 仲里利信衆院議員(無所属)は18日、教科書記述問題で記者会見を開き、「米軍基地の集中により、沖縄が通常予算以外に3千億円の振興金をもらっているような印象を与える」と不快感を示した。

 これに対し『沖縄の不都合な真実』著者の一人の篠原章氏は、「県は地方交付税だけを根拠にし、沖縄県の財政経済に占める政府からの補助金は大きくない、と主張する。問題は、1人当たりの全国一の国庫支出金、都道府県別にみた全国一の金額の防衛省予算、他の都道府県に存在しない減免税措置、他の都道府県に存在しない一括交付金と高率補助だ。県やメディアの主張はたんなる詭弁にすぎない」と指摘する。

 一方、沖縄戦における集団自決については、日本史で全国占有率トップの山川出版を除く5社が記述したが、明確な軍の強制性を明記した出版社はなかった。2006年度の検定では、軍による強制を断定的に書くことは認めないとする検定意見が出され、現在も有効だ。

 日本軍の「強制」記述復活を求める革新団体は、「山川出版に集団自決の記述がないことは看過できない」と、追加記述を求めると表明している。ただ、作家の大江健三郎氏と岩波出版が被告となった沖縄戦集団自決冤罪訴訟では、「軍命令存在の真実性の証明があるとは言えない」と判決文に記され、集団自決の軍命は事実上、否定された。このことからも当然の記述と言える。

 今回の社会科教科書検定では、米軍基地、沖縄戦に代表されるような沖縄関連の記述が沖縄のメディアが主張する内容に偏らなかったことは評価に値する。


@帝国書院の「新現代社会」での沖縄の基地問題に関する主な記述(訂正申請前)

 沖縄県にだけアメリカ軍基地が集中していることや、基地が住宅街に近く騒音や墜落などの事故の危険性もあることから、沖縄の多くの人々が負担に感じており、基地の移設を訴えている。他方で、アメリカ軍がいることで、地元経済がうるおっているという意見もある。アメリカ軍基地が移設すると、あわせて移住する人も増えると考えられており、経済効果も否定できないとして移設に反対したいという声も多い。その経済効果は、軍用地の使用料や基地内で働く日本人の給与、軍人とその家族の消費などで2000億円以上にものぼると計算されている。また日本政府も、事実上は基地の存続とひきかえに、ばくだいな振興資金を沖縄県に支出しており、県内の経済が基地に依存している度合いはきわめて高い。

 (中略)

 2010年に日米両政府が共同声明を発表し、移設先を名護市辺野古地区とすることが明記された。13年には、当時の沖縄県知事が移設に向けた埋め立て工事を承認したことで、日本政府は移設に向けて準備を進めている。他方で、14年には移設反対派の県知事が誕生するなど沖縄県と地元の自治体は移設反対を主張しており、決着をみていない。アメリカ軍全体の再編成の進行と、周辺海域での国際的緊張も考えに入れた、慎重な解決が求められている。

(太字は今回の特徴的記述)