トランプ発言と日米地位協定 「血の同盟」が平等もたらす

《 沖 縄 時 評 》

改憲、双務条約化が課題に 「不公平」な安保条約

 沖縄県では基地問題が騒がれるたびに日米地位協定が米兵の特権を保証する「不平等協定」との批判が起こり、「沖縄差別」だと論じられる。沖縄革新県政はそれを実証しようと、米軍が駐留する欧州各国で地位協定などを調査し、今年5月に報告書をまとめた。

 調査は昨年5月に続くもので、今回はドイツ、イタリア、イギリス、ベルギーの4カ国。「北大西洋条約機構(NATO)とNATO軍地位協定を締結し、各国とも補足協定などで米軍に国内法を適用して活動をコントロールしており、米軍の運用に国内法が適用されない日本との差が明確になった」(沖縄タイムス5月5日付)とし、日米地位協定が「不公平」であると強調している。

トランプ発言と日米地位協定 「血の同盟」が平等もたらす

会談に臨むトランプ米大統領(左)と安倍晋三首相=6月28日、大阪市住之江区のインテックス大阪(代表撮影)

 だが、トランプ米大統領に言わせれば、話は逆だろう。米テレビ局FOXビジネスのインタビューで、日米安全保障条約の「不公平」についてこう述べた。

 「日本が攻撃されれば、米国は第3次世界大戦を戦う。われわれは命と財産を懸けて戦い、彼らを守る。でも、われわれが攻撃されても、日本はわれわれを助ける必要はない。彼らができるのは攻撃をソニーのテレビで見ることだ」(6月26日)

 トランプ発言には根拠不明なものもあるが、日米安保条約については20カ国・地域(G20)大阪会議の記者会見でも述べており、“公式見解”だ。米国内には1980年代から「安保タダ乗り論」があり、唐突な主張ではない。

 実は安倍晋三首相も同様の考えを持つ。外交評論家の岡崎久彦氏との対談集『この国を守る決意』(芙蓉社、2004年刊)で、「軍事同盟というのは“血の同盟”です。日本がもし外敵から攻撃を受ければ、アメリカの若者が血を流します」とし、日本は血を流さないから完全なイコールパートナーではないと語っている。くしくも日米首脳は本音では日米安保が「不公平」との共通認識に立っている。

◆交戦権否定する9条

 トランプ大統領は6月中旬、ホルムズ海峡で日本向けタンカーなどが攻撃された際、日本を名指しに自国の船舶を自国で守れと述べた。「ショー・ザ・フラッグ(艦隊を派遣せよ)」というわけだ。このセリフは1991年の湾岸戦争の際にも語られた。

 当時、日本は総額130億ドル(約1兆5500億円)の巨額資金を多国籍軍に提供したが、イラクから解放されたクウェートは米国の新聞紙上に「クウェート解放のために努力してくれた国」への感謝広告を載せたが、ここに日本の国名はなかった。

 そのとき米国は「ショー・ザ・フラッグ」を唱えた。それを契機に自衛隊の国際貢献活動の議論が高まり、翌92年にPKO協力法(国連平和維持活動協力法)が成立した。

 こんな具合に安全保障は「人」が重要で、金で代えることはできない。その人とは軍人だ。軍事同盟が「血の同盟」とされるのはそのためだ。ところが、わが国は集団的自衛権行使を憲法違反とし、米国のために戦うことを禁じている。

 その代償として米軍基地を設け使用することを認めるとしている(条約6条)。だが、「人命は地球より重い」(福田赳夫元首相)。いくら基地を提供しても「血の同盟」にならない。日米安保条約が片務条約とされるゆえんだ。日米地位協定問題もここから生じていることを想起しておくべきだ。

 では憲法解釈を改め、集団的自衛権行使を認めれば、公平になるのか。それもノーだ。憲法が「交戦権を認めない」(9条2項)とするところに根本的問題が横たわっているからだ。これは残念なことに安保論議の盲点になっている。

 交戦権とは、戦争状態にある軍事組織が順守すべき義務を明文化した戦時国際法、交戦法規を指す。人権も規定しており、国際人道法とも呼ばれる。例えば、制服と記章を着けた者のみに戦闘行為を許し、敵軍に捕まれば戦時捕虜扱いを受ける(だからどの国の軍人も制服・記章を着ける)。

 あるいは軍人と文民、軍事目標と民用物を区別せずに行う無差別攻撃を禁止し、非戦闘員に危害を加えれば戦争犯罪を問う。こういう規定が交戦権だ。その交戦権を9条は否定する。

 それだけではない。現行憲法は軍人に特別な地位を与えていない。軍人は武器を持っており、一般市民とはまったく異なる環境に置かれている。だから公務員の中でも最も厳格な規律が必要で、どの国も憲法に軍を規定し、特別法(軍法)を整備する。米国憲法も軍法制定権を定めている。

 ところが、わが国は憲法に軍の保有を明記せず、自衛隊を警察法に準じて整備してきた。軍人は武器使用を許され、敵兵を倒す“殺人”も認められる。それを一般人と同じ刑法で殺人罪を問えば、防衛行動は成り立たない。だから軍人は一般法廷でなく軍法会議で裁くのが世界の常だ。にもかかわらず憲法は特別裁判所の設置を禁止する(76条2項)。こういう「不思議の国」が日本なのである。

 さて、冒頭の沖縄県のNATO4カ国調査だが、NATOは「血の同盟」だ。片務条約の日米安保条約、さらに「不思議の国」日本と同じ土俵に乗せて論じるのはどだい、無理な話だ。昨年4月に沖縄県が独伊の地位協定調査を発表した際、筆者は本欄で「軍事同盟・核共有を黙殺 『木を見て森を見ず』の過ち」と指摘した(同5月5日付)。それでも県は懲りずに血税の無駄遣いを続けている。

◆共通基盤を見落とす

 だが、今回の調査結果について沖縄タイムスが馬脚を現した。英国の調査結果についてこう記している。

 「1952年に成立した駐留軍法を根拠に、米軍が活動している。英軍の活動を定めた国内法は、米軍にも同様に適用されることを規定。英議会でも、国防相は『在英の米軍は米国と英国の両方の法律に従う』と答弁している」

 米英両方の法律に従って齟齬(そご)を来さないのは、先に述べた国際法と軍法という共通基盤があるからだ。ここを見落として何が「不平等協定」か。

 とまれ地位協定改正を唱えるなら、その前に日米安保条約を双務条約にせねばならない。そのためには憲法改正が必要だ。それも9条改正だけでは足りない。自衛隊を軍として明記し、軍に必要な法と裁判所を設けねばならない。そうすれば日米地位協定は真に公平になる。沖縄県民こそ、改憲の先頭に立つべきだ。

 増 記代司