辺野古めぐる県民投票 正当性なき「政治闘争」
《 沖 縄 時 評 》
地元無視、中立性からも逸脱 設問で異なる結果に
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設をめぐって沖縄県は2月24日に県民投票を行う予定だ。だが、県民投票は「地元」の普天間や辺野古住民の思いをないがしろにしている。
宜野湾市は昨年12月に投票不参加を表明、辺野古の行政委員会も県民投票に反対している。また宮古島市が投票不参加を決めたほか、両市を含め7市町村が投票事務に必要な補正予算を否決している。
玉城デニー県知事は「県民の意思を示す」と強気の姿勢を示すが、全県投票は困難だ。県民投票結果に法的拘束力もない。それでも強行するのは何のためか。
県民投票は世論調査の一種と言ってよい。投票する人の意思、民意を問うからだ。世論調査で代表的なのは新聞社のものだが近年、社によって数字が異なる。その理由を埼玉大学社会調査研究センター長の松本正生教授はこう説明する。
「世論調査は、聞き方によって回答が異なる可能性があります。例えば、比較的単純な内閣支持率の質問でも、選択肢を『支持する』『支持しない』の2択にするのか、『関心がない』を加えて3択にするのかで、数字は変わります。また、選択肢が同じでも支持・不支持を明確に答えなかった人を『無回答』と判断するのか、もう一度、『あえていえばどうですか』を重ねて聞くのかによっても、結果は異なります。ましてや、憲法改正など複雑な問題について各社の数字が異なるのは、むしろ自然なこと」(毎日新聞12月20日付)
では、県民投票はどうか。条例では辺野古の埋め立ての賛否について投票用紙の「賛成」「反対」の欄に「〇」を書く2択だ。自民党や公明党など県政野党と中立会派は「やむを得ない」「どちらとも言えない」を加えた4択を主張したが、県議会で多数を占める反辺野古派が拒絶した。
この設問では辺野古移設の原点である「普天間基地の危険性除去」の民意はどうなるのか。そこが「複雑な問題」なのに肝心のところを2択でスルーした。これで果たして県民投票に正当性があると言えるのか。
◆投票に反対する地元
それだけではない。投票条例は知事に対して必要な広報活動、情報提供を「客観的、中立的」に行うよう定めるが、玉城知事は「工事阻止」を唱え、中立性を反故にしている。沖縄防衛局が12月14日に埋立地に土砂投入すると、玉城知事は翌15日に反対派が座り込む辺野古のキャンプ・シュワブのゲート前を訪ね、「(工事阻止を)諦めない」と気勢を上げた。
地元紙によると、玉城知事は「(14日は)県庁内で現場にいる皆さんの闘いを必死で受け止め、見守っていた」と語り、「われわれの闘いは止まりません」「うちなーぬぐすーよー、まじゅん、ちばてぃいかなやーさい」(沖縄のみなさん、一緒に頑張っていきましょう)と鼓舞する言葉を続けた(沖縄タイムス16日付)。中立・公平を公然とかなぐり捨てたのだ。
同紙18日付の「達眼~辺野古土砂投入~」で熊本博之・明星大学准教授はこう述べている。
「(知事の)その言葉は、辺野古集落に向けられていない。ゲート前からほんの少し歩けば行くことのできる集落内に、知事は足を運ばなかったからだ」
最も民意を聞くべきは移転先の辺野古の人々に決まっている。玉城知事はこれをスルーした。辺野古が移設を容認しているからだろう。辺野古区の行政委員会は12月12日、「埋め立ての賛否だけを問うことは望ましくない」として県民投票反対を全会一致で決議している。辺野古区に現存するヘリパッドが代替施設の完成とともに返還され、地元の負担が軽減されるからだ(本紙12月19日付)。
もう一つの地元、普天間飛行場のある宜野湾市はどうか。市議会は12月4日、「(同飛行場の)固定化につながる最悪のシナリオに全く触れておらず、強い憤りを禁じ得ない」と早々と県民投票反対意見書を採択。これを受けて松川正則市長は12月25日、投票事務に関する予算を執行せず投票事務を実施しない考えを表明した。
投票不参加を決めたのは宜野湾市だけではない。宮古島市では投票事務の予算を削除した予算補正案を2度にわたって議会が可決。下地敏彦市長は12月18日、「国全体に関わる問題を一地域の人で決定してやれというやり方は国の専権事項を侵すような形になる」として不参加を表明した。
このほか沖縄市と石垣市は県民投票予算案を再議でも否決している。年明けにも市長が判断を表明するが、投票不参加が広がるのは必至だ。
このように投票条例は設問に問題がはらんでいるだけでなく、地元の意見を封殺している。おまけに投票を実施する行政機関の中立・公平性さえ守られておらず、疑惑だらけなのだ。
◆正当性強弁の地元紙
ところが、地元紙は正当性の強調に躍起だ。沖縄タイムスは元旦付1面に住民投票推進グループが調べた全国の住民投票の実施例を示し「住民投票反映 全国76% 『首長が民意重視』」「住民投票 全国430超え」などと報じた。
だが、大半は市町村合併をめぐる投票だ。国の専権事項である安全保障策をめぐっては1996年「基地の整理・縮小と日米地位協定の見直し」沖縄県民投票、97年「海上ヘリ基地建設」名護市民投票、2006年「米空母艦載機の移駐」山口県岩国市民投票、15年「海上自衛隊の配備」沖縄県与那国町民投票の4件だけだ。
このうち与那国町の賛成以外は反対が多数だったが、国の安保政策の足を引っ張っても覆すことはなかった。岩国市の場合、反対派市長が落選し、その後、移駐を受け入れた。こうした事実こそ直視すべきだ。反辺野古派が県民投票で国の政策を転換できるかのように言うのは虚偽だ。
一方、琉球新報は元旦のネット版に「県民投票実施に『賛成』が74%」と新基地建設反対県民投票連絡会が独自に実施した世論調査結果を報じた。これもパフォーマンスだ。前記の松本教授が「世論調査は質問される側が、質問する側に一定の信頼を置かないと成り立ちません」と言うように反対派の調査は容認派が信頼しないので答えず、反対ばかりが増える。県民投票もそうなるだろう。
県民投票に正当性はない。それでも強行するのは政治闘争と言うほかない。
増 記代司