辺野古めぐる県民投票 黙殺された「普天間返還」

《 沖 縄 時 評 》

恣意的民意づくり正当性なし

◆撤回理由に根拠なし

辺野古沖

埋め立て関連工事が再開された沖縄県名護市辺野古沖=1日午前

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設問題は県知事選後、新たな動きを見せている。一つは県の埋め立て承認の撤回をめぐって国土交通省が撤回効力を停止させ工事が再開したこと、もう一つは辺野古工事の是非を問う県民投票条例が公布されたことだ。これらは辺野古問題にどんな影響を与えるだろうか。

 沖縄県は今年8月、辺野古工事の埋め立て承認後に「留意事項」(承認の条件)に違反があるとし承認を撤回した。その中にジュゴンなどの環境問題が挙げられているが、果たして正当なのか。京大霊長類研教授の正高信男氏は「辺野古とジュゴンの客観性」について産経9月30日付「新聞に喝!」で次のように言う。

 ≪沖縄ではジュゴンが絶品だったと教わった。イノシシ以外の大型獣がいないなか、かつてタンパク源として重宝したという。縄文期の貝塚からも、食べかすとしてこの海獣の骨が出土する。

 テナガザルは唐の時代には中国大陸で広汎に見られたが今日ではすっかり姿を消し、十数匹が海南島にいるのみである。人間による狩猟でこうなったと考えられている。

 おそらく同じようなことが沖縄のジュゴンにも起こったであろうというのは、多くの動物学者に共通の見解だ。今日、単独で遊泳する個体がまれに沖縄の近海で見られても、遠く離れた所で生まれたのちに成長にともなって出自集団を出奔した、いわゆる「離れ」個体である。ニホンザルでも壮年のオスが1匹で東京のような都会にも出没するが、これにひとしいだろう≫

 それで正高氏は「米軍普天間飛行場の移設が予定される辺野古の周辺の海でジュゴンを見かけたとすれば、そういう個体とみてまず間違いない―と考える哺乳類研究者は私をふくめ多数派ではないだろうか」とし、「基地移設がジュゴンの生態系破壊につながるというしばしばニュースで聞く主張は科学的な妥当性を欠く」と指摘している。

 ジュゴンをめぐる県の撤回理由がいかに不当であるか、正高氏の指摘からも知れよう。日米の自然環境団体は辺野古工事が米国の国家歴史保存法(NHPA)に違反するとして米連邦地裁に建設中止を求める「ジュゴン訴訟」を起こしたが、サンフランシスコの連邦地裁は今年8月、「工事はジュゴンに与える影響を十分考慮した」として訴えを退けている。こんな具合に県の埋め立て撤回の理由はまったく根拠がない。

 これに対して防衛省は行政不服審査法に基づき審査請求を行って撤回執行停止を求め10月30日、石井啓一国土交通相は県の埋め立て承認撤回の効力を停止した。防衛省は11月1日、工事の再開へ撤去していた資材を戻す作業を開始し、年内にも土砂投入を行う。一方、県は執行停止を取り消すために総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」への審査申し出を行うとするが、悪あがきだ。

◆4択案を与党が一蹴

 では、辺野古移設工事をめぐる県民投票はどうか。先の県議会で採択された「辺野古米軍基地建設のための埋め立ての賛否を問う県民投票条例」は10月31日に公布、施行された。投票は公布日から6カ月以内に実施される。

 投票は埋め立ての賛否を二者択一で問い、投票用紙の「賛成」「反対」の欄に「〇」を書いて投票するというものだが、これも疑問だ。自民党や公明党など県政野党と中立会派は「やむを得ない」「どちらとも言えない」を加えた4択を主張したが、県議会で多数を占める与党は一蹴し、強引に2択とした。辺野古移設の原点である「普天間基地返還」の民意を問わずに、辺野古の是非だけを焦点化するのは恣意的な「民意づくり」と言うほかない。

 ところで反辺野古派が県民投票を主張した背景に翁長前知事の埋め立て承認取り消しを違法とした福岡高裁判決(最高裁で同判決が確定=2016年12月)がある。判決は普天間飛行場の被害を除去するには辺野古の埋め立てを行うしかなく、それにより県全体として基地負担が軽減されるとした。

 この裁判で県は「辺野古反対が民意」と主張したが、判決はこれを退け、次のように指摘した。

 「本件埋立事業によって設置される予定の本件新施設等は、普天間飛行場の施設の半分以下の面積であって、その設置予定地はキャンプ・シュワブの米軍使用水域内であることを考慮すれば、沖縄県の基地負担の軽減に資するものであり、そうである以上本件新施設等の建設に反対する民意には沿わないとしても、普天間飛行場その他の基地負担の軽減を求める民意に反するとはいえないし、両者が二者択一の関係にあることを前提とした民意がいかなるものであるかは証拠上明らかではない」

 判決は「反辺野古は県民総意」の主張を根底からひっくり返した。それで辺野古県民投票の会副会長の安里長従氏は、判決は沖縄には①「基地負担軽減を求める民意」②「辺野古新基地反対の民意」があるが、その民意が二者択一の①なのか②なのか、明らかではないとしているとし、①および②であることを明確に示すために県民投票を行うべきだとした(沖縄タイムス18年4月27日付「論壇」)。

 だが、こう主張しておきながら今回、実施される県民投票は②しか問わず、①について(すなわち普天間返還)は黙殺しているのだ。つまり判決が指摘した「両者が二者択一の関係にあることを前提とした民意がいかなるものであるか」は今回の県民投票でも明らかにならないのだ。

 また多様な民意があると考えれば、「やむを得ない」「どちらとも言えない」との選択肢も設けるべきだが(世論調査でこの選択肢を設けるケースが少なくない)、この点についても県民投票は拒絶した。

◆政治闘争に血税投入

 そもそも県民投票は法的拘束力がない。公選法のような規制や罰則もないから、何もやっても許される。おまけに投票による「民意」が恣意的とあっては、百害あって一利なし。政治的パフォーマンスにすぎない。政治闘争に県民の血税を投入するのは税金泥棒だ。

 石垣市議会は県民投票への反対決議を採択し、県に突き付けている。石垣、宜野湾、糸満、うるまの4市は投票事務について態度を保留している。不当な県民投票に協力する筋合いはない。政府は粛々と辺野古移設工事を進めるべきだ。

 増 記代司