タイ、来春にも8年ぶり総選挙
タイが民政復帰に向けて動き出した。暫定政権はクーデター直後から、民政復帰を進めるとしてきたが、それが延び延びとなってきただけに一歩前進したとは言える。ただ、8年ぶりとなる総選挙が実施される可能性こそ高まっているものの、果たしてそれが民政復帰につながるものかどうか、まだ不透明だ。(池永達夫)
不透明な民政復帰
軍が政権維持に躍起
タイの総選挙は、早ければ来年2月にも行われる。プラユット暫定首相は総選挙の候補日として、来年2月24日を挙げた。
9月には、クーデター後、制限され続けた政党活動が一部、緩和された。具体的には、政党の役員を選ぶための党大会の実施や党役員の会議、党員の勧誘活動などが自由になった。
とはいっても、5人以上の政治集会は禁止されたままだ。各政党は選挙を目前に控えているものの民主的な選挙とは程遠く、思うような活動ができないままだ。
軍政は民政移管後も続投する意向を鮮明にさせ、あの手この手と策を弄(ろう)している。
まずつくったのは、次期政権の受け皿となる軍寄りの新政党「国民国家の力党」で、党首や幹事長など要職に現政権の閣僚4人を起用した。さらにタクシン派の貢献党から、元議員らを引き抜くなど政権維持に向け、露骨な政治工作に動いている。
ただ、軍政による引き抜き工作が強まれば強まるほど、タクシン派の結束が固まるという反面教師の側面もある。さらに、軍政の強権統治に反発し、以前は犬猿の仲だった親タクシングループの赤シャツ派と反タクシングループの黄シャツ派が反軍政で手を結ぶ可能性もあるなど、総選挙後の政治模様を予想するのはまだ難しい情勢にある。
なお、国民は次期首相候補として、プラユット氏を支持する人は多い。だが、それと政党支持率は一致せず、タクシン派のタイ貢献党は高い支持率をいまだ持っている。
国立開発行政大学院が9月に実施した政党に関する世論調査では、支持率トップはタイ貢献党で28・8%、国民国家の力党が20・6%、民主党が19・6%、若手実業家タナトーン氏が率いる新未来党が15・5%となっている。
国家を二分した長い政治抗争を終わらせ、治安を回復させたプラユット暫定首相への評価は高いものの、だからといって軍部が居座るのは国民も首をかしげるといったところだ。
今の情勢では、親軍政党の国民国家の力党が、次の総選挙でたとえ第1党となっても、過半数を取ることは難しい情勢で、他党との連立が不可欠になる見込みだ。
ただ、首相の選出は下院議員だけでなく、上院議員を含めた上下院全議員が投票権を持つ。その下院議員200人は事実上、軍による指名制になっている。つまり、首相選出において、軍は他政党に比べ選挙前から、すでに3分の1近いアドバンテージを与えられている格好だ。
それでも、10年前のクーデターで国外逃亡中のタクシン元首相は、今なお政界への影響力を保持している。もし次期総選挙で反軍政派が下院500議席中、300議席を大きく上回るようなことになれば、たとえ政権は取れなくても、軍部による政権は立ち行かなくなる可能性が出てくる。下院には予算関係の調査権や不信任案議決権があるものの、上院にはなくレームダック化する可能性があるからだ。
軍政は権力継続に向けた手を次々打ち、万全の体制を構築しつつあるとはいえ、選挙は水物。隣国マレーシアやモルディブで起こった逆転劇が起こらないとも限らず、予断はまだ禁物だ。