「子どもの貧困」キャンペーン、「家族価値」触れぬ沖縄の地元2紙

《 沖 縄 時 評 》

貧困の底流に「性の乱れ」

「子どもの貧困」キャンペーン、「家族価値」触れぬ地元2紙

子供の食料支援を行うカフェの入り口=沖縄市

 沖縄県では今年に入って「子どもの貧困」がにわかに社会問題化してきた。貧困率が全国最悪とする研究報告などが発表され、地元紙、沖縄タイムス(以下、タイムス)と琉球新報(同、新報)は「子ども貧困」キャンペーンを競い合っているからだ。「辺野古」と「子どもの貧困」が紙面に載らない日はない。そこからは政治的思惑も匂ってくる。沖縄の「子どもの貧困」問題の底流を探ってみよう。

 タイムスの今年の元旦号トップは子供の貧困に焦点を当てるシリーズ「ここにいるよ 沖縄 子どもの貧困」のプロローグで、「刻まれた飢え 孤独/15歳 公園で1年生活」との衝撃的な見出しが掲げられていた。

 今どき、未成年の女子が1年間もホームレスに!?  これが事実なら事件だが、ニュースとして聞いた記憶はない。首を傾げて読みだすと、書き出しに「キョウコ(39)は15歳のとき」とあった。

 何のことはない、39歳女性の4半世紀も前の「昔話」で、それこそ確かめようもない。タイトルの「ここにいるよ」の現在進行形が何とも空(むな)しい。

 それ以降、タイムスは同シリーズを続け、次から次へと「子どもの貧困」を描いていった。1月4日付社説は「ここにある『貧困』 支援の土台をつくる年に」の見出しで、「子育ての責任を親にだけ押し付ければ、貧困は固定化され格差は拡大する」とし「公的責任」を声高に叫んだ。

安倍政権批判狙う

 同日には、沖縄県の子供の貧困率が全国平均の2倍以上の全国最悪とする山形大学の戸室健作准教授の研究結果が発表された。これを両紙はセンセーショナルに報じた(1月5日付)。

 それによれば、県内の18歳未満の子供がいる世帯の「子ども貧困率」は37・5%で、全国平均(13・8%)の2・7倍、断トツの全国最悪だという。(「子どもの貧困率」は、子ども全体に占める、等価可処分所得〈世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得〉が貧困線に満たない子どもの割合。「貧困線」は、等価可処分所得の中央値の半分の額。「沖縄県提出資料」より)。

 戸室氏は貧困対策についてもっぱら雇用や賃金に焦点を当て、非正規規制の国策が必要だと強調、さらに「沖縄の狭い土地に多くの米軍基地が存在し産業の発展を阻害していることも関係していると思われる」と基地問題まで持ち出している(タイムス)。

 タイムス同7日付の1面コラム「大弦小弦」は「突出した貧困を放置している政府の姿勢」を批判、「背景には沖縄戦と27年間の米統治、過重な基地負担がある」とし「親世代を含めた低収入の底上げなど根本的な施策で『ネグレクト』に終止符を打つべき」と主張した。貧困を政府のネグレクト、沖縄への「虐待」としているのだ。

 どうやら「子ども貧困」キャンペーンの矛先は安倍政権に向けられているようだ。安倍政権は格差を拡大させ、貧困や弱者を顧みない、辺野古問題と同様に沖縄に対する虐待だ、そんな論理で「子どもの貧困」を描いている。

 一方、県は県内8市町村のデータを活用し独自の子供の貧困率(中間報告)を公表した(両紙1月30日付)。それによれば、沖縄の子供の貧困率は全国平均(16・3%)を大きく上回る29・9%としている。

 中でも、ひとり親世帯の貧困率は58・9%と際立ち、経済的理由で過去1年間に必要な食料を買えないことがあった世帯が43%にのぼり、「沖縄の子どもの貧困の深刻さが浮き彫りに」(新報)と訴える。

 これもビッグニュースとして報じられ、「子ども貧困」キャンペーンに拍車が掛かった。県は3月に入ると、安倍政権がやらない弱者救済に力を入れていると言わんばかりに「県子どもの貧困対策計画」案を発表した。

事例は離婚や放蕩

 地元2紙や県は解決への「抜本的施策が急務」(新報3月25日付)とし、雇用や賃金など経済問題に焦点を当てている。もとより経済支援も必要だろうが、果たしてそれが抜本的解決策と言えるのだろうか。

 そもそも子供の貧困はなぜ生じているのか。そこを冷静に見詰めないと、解決の糸口が見つからないはずだ。タイムスは前記シリーズ、新報は「希望この手に 沖縄の貧困・こどものいま」とのシリーズで事例を挙げているので、そこから貧困の実態を幾つか拾い出してみよう。

 まずタイムス。冒頭で紹介したキョウコは、「両親が離婚し、幼稚園のころ、父親に引き取られた。自営業の父親は毎日のように外で飲み歩き、夜中まで帰ってこない」という環境に置かれて育った。

 1月20日付に取り上げたマユ(19)は「小2のとき両親が離婚」、小6のある日突然、母が「お父さん」という見知らぬ男を連れてきて同居。男は働かず、酒浸りで、男と母から虐待を受け続けた。

 2月12日付のアイ(30)は、付き合っていた男性との間に子供ができ、23歳で結婚。夫は転職を繰り返し、そのストレスのはけ口に暴力を振るい、4年前に離婚し母子家庭になった(いずれも仮名)。

 一方、新報は――。県内の風俗店で働き学費と生活費を稼ぐ20代前半の女性は母と兄の3人暮らし。母は「とても自由な人」で、たびたび唐突に旅行に出て数週間も戻らない(1月22日付)。

 県内の高校に通う女子生徒(17歳)は3歳のとき、働かず遊技場ばかりに通っている父と母が別れ、母の友人宅を転々。スナックで働く母は家計を支えるために稼いだはずの収入を交際相手の男に貢ぎ、ついに不登校に(1月26日付)。

 中学3年で長男を産んだ女性(21)は、その長男の父親とは結婚せず、その後に知り合った別の男性と結婚し2人の子を持った(3月28日付)。

 こんな具合に両紙に登場する「子どもの貧困」の大半は母子家庭だった。それも夫がネグレクト、母親が放蕩のケースが少なくない。どう読んでも、これが政府の「ネグレクト」とは言い難い。

本質を見抜く読者

 だから両紙の「子ども貧困」キャンペーンに対して厳しい意見が出ている。以下は新報自らが記している読者の声だ(2月2日付)。

 ―「日常的に小学生に接する立場にいる」という読者は、手紙で「真の原因は親の怠慢だと思う」と指摘。「『働かないのは恥ずかしい』『子どもを生んだら、衣食住を整え教育を与えるのは親の義務だ』という社会認識を定着させることしか解決の道はない」とつづった。「厳しい貧困の背景を知りたい」(70代・男性)という声もあった-

 ここにある「日常的に小学生に接する立場」の読者は教師と思われるが、親の無責任極まりない態度に黙っておれなかったのかもしれない。

 この指摘にあるように家族(親族)間には生活保障の義務(民法877条)がある。夫婦間、未成年の子に対する親の扶養義務だ。その放棄は犯罪行為だ。両紙には刑法や児童虐待防止法の対象になる例もある。

 にもかかわらず、それを追及せず、お涙頂戴よろしく「貧困」を描き、県は経済的な支援策をもって“善政”であるかのようにふるまっている。

 では、なぜ沖縄県の子供の貧困率が全国平均の2倍以上も多いのか。その“謎解き”をすると第1に、中3で出産した女性がいたように沖縄では全出生数に占める10代の出産割合が全国平均1・2%の2倍の2・5%に上る。全国一だ(13年人口動態統計)。

 第2に、シングルマザーが多く、婚外子が全国平均のほぼ2倍の4・2%に上っている。婚外子の母親は19歳以下(未成年)が30・8%(全国25・1%)。3人に1人が生活力の乏しい少女なのだ。

 第3に、離婚率が全国1位の2・59(人口1000対)で全国平均1・84を大きく上回っている(14年調査)。子供の貧困が全国の2倍以上になっているのは、実にこうした背景からである。

 沖縄の子供貧困の底流には「性の乱れ」「DV(暴力)」「ネグレクト(虐待)」などに見られる、性と結婚、家族の価値を軽視する倫理問題が横たわっている。これは「家族崩壊」の一側面と言っても過言ではない。

 だが、地元紙も県もこれに触れない。それは「家族の価値」などと言えば、それこそ安倍路線の容認につながると考えているからではなかろうか。子供貧困の本質から目を逸らし、安倍政権の沖縄への「ネグレクト」としていては真の解決は望めない。

 増 記代司