欧州のイスラム化 加速の恐れ

EUとトルコ、移民・難民送還始まる

ビザなし渡航6月までに実現

 欧州連合(EU)とトルコは3月18日、移民・難民の送還で合意、4月4日、送還が始まった。合意には、トルコのEU加盟交渉の加速化と、トルコ国民のEU諸国へのビザなし渡航を6月末までに実施することが盛り込まれ、欧州のイスラム化が加速する可能性が出てきた。
(カイロ・鈴木眞吉)

ローマ法王、キリスト教徒標的テロ頻発に焦り

 ブリュッセルでのEU・トルコ首脳会議の合意点は、①3月20日以降ギリシャ入りした移民・難民をトルコに強制送還する②トルコに送還されるシリア難民1人に付き、トルコ滞在のシリア難民1人をEUが合法的に受け入れる、というもの。上限は7万2000人。

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4日、トルコ送還が始まったばかりのギリシャのレスボス島で、沖で保護され入れ替わるようにして港に到着した、難民とみられる少女(AFP=時事)

 欧州に押し寄せる移民・難民問題が解決するかは不透明で、ギリシャ東部キオス島では3月31日、難民ら数百人が送還に抗議の声を挙げた。しかし、より深刻な問題は、トルコの本音が、EU加盟交渉の加速と、トルコ国民のEUへのビザなし渡航の早期実現にあることだ。

 イスラム法の施行によるイスラム国家・世界の実現を悲願とするイスラム主義組織ムスリム同胞団の隠れ団員とされるエルドアン・トルコ大統領は、世俗革命(政教分離)を成し遂げた近代トルコの父ケマル・アタチュルクから、エルドアン氏以前までの歴代の大統領・首相とは全く正反対の政教一致を目論(もくろ)むイスラム主義者。

 国際テロ組織アルカイダは、一度イスラム化したがキリスト教圏に引き戻されたスペインを再度イスラム化する目標を掲げてきた。過激派組織「イスラム国」(IS)はバチカン占領を公言している。

 その上、シリアを含むアラブ・イスラム諸国からの移民・難民が大量に欧州に押し寄せ、過激派やムスリム同胞団が手ぐすね引いて迎え入れ、組織化を進めている。欧州におけるテロのネットワークが、パリ同時多発テロやブリュッセル多発テロを発生させた。

 欧州は今や、イスラム教徒によって3重、4重にも浸食され続けている。この上、とどめとも言える、99%がイスラム教徒であるトルコ国民がビザなし渡航を実現、自由にEU諸国を往来すれば、欧州でのイスラム社会の拡大・深化が加速することは間違いない。

 欧州のキリスト教信仰は形骸化・世俗化し、無神論者も増え、少子化が追い打ちを掛けて、キリスト教徒人口は減少の一途をたどっている。それに引き換え、イスラム教は、全世界イスラム化を目指す若者らを集め、自爆させるほどの信仰心を燃え立たせ、先頭に立て、爆発的な人口増加を維持している。

 AFP通信が4月2日、オランダ・ハーグの「テロ対策国際センター」からとして報じたところによると、2011年から15年までに、イラクとシリアのIS支配地域に渡った欧州からの若者らは約4000人で、うち70%は、ベルギー、フランス、英国、ドイツ出身者。人口比ではベルギーが最多。うち30%はそれぞれの国に戻っているという。

 欧州の各都市に作られたイスラム組織が、友人・知人を勧誘、イラクやシリアに送り、帰還者を再組織化、大規模テロを起こさせている。全体の6~23%が他宗教からの改宗者とされ、イスラム組織は組織的に「伝道」している実態も浮かび上がった。

 アルカイダとISが裏で協力している事実も明らかになった。ムスリム同胞団は彼らを先頭に立て、最後の実り(全世界イスラム化)を刈り取ろうと背後で操っている。

 キリスト教の世界的衰退に加え、イスラム過激派からのキリスト教徒標的のテロによる信徒激減に、焦りを募らせている代表格はフランシスコ・ローマ法王だ。

 法王は、3月28日パキスタン・ラホールでの自爆テロに「イースターは、残虐なテロによって血で染められた」と慨嘆した。3月22日のベルギー同時テロには、「テロリストは、残忍な根本主義によって分別を失った」と指弾、テロ容疑者に改心を求めた。今や、イスラム教徒人口がキリスト教人口を上回るのは時間の問題になっている。

 イスラム教徒によって、欧州の価値観がズタズタに切り裂かれようとする時に、さらにそれに追い打ちをかけ、致命的打撃を与えるのは、トルコのビザなし渡航の解禁だろう。欧州諸国指導者には慎重な対応が望まれる。

 穏健派とされる信徒を含むイスラム教徒の多くは、「改宗は死」を掲げ、信徒に信教の自由を認めず、自分の宗教的価値観にのみ固執する排他的信仰を有しているからだ。