豊見城市・小4児童自殺問題、「いじめ問題専門委員会」全員が辞任
新教委制度で続く隠蔽体質
《 沖 縄 時 評 》
沖縄県豊見城市で昨年10月、小学4年の男児(当時9歳)が首を吊って自殺した。このニュースが地元2紙に報道されたのは、事件から3カ月も経過した今年の1月9日だった。
警察庁の統計によると沖縄県の10代の自殺者は例年2~7人程度で全体の1~2%にすぎない。10歳にも満たない小学校児童の自殺は統計にも出ていないくらいだから余計に衝撃的だった。
いじめが原因により児童・生徒が自殺した事件では、大津市で起きた中学生のいじめ自殺の問題が記憶に新しい。これは2011年に滋賀県大津市の当時中学2年生の男子生徒が、いじめを苦に自宅で自殺した事件のことで、事件前後の学校と教育委員会の隠蔽(いんぺい)体質が発覚し、問題視された。翌年には本事件が誘因となって教育委員会制度の見直しへと繋(つな)がった。
大津市の事件では、本来、児童・生徒を守るはずの教育委員会の対応が後手にまわるなどに批判が続き、制度そのものの形骸化が指摘された。学校に重大問題が発生した場合、教委に任せるのではなく首長が責任を持って教育行政を進める必要があるとして、教育委員会制度がおよそ60年ぶりに大幅に改正され、昨年4月から新制度に移行した。
◆入院後1週間の命
豊見城市で起きた小学4年男児の自殺は、教育委員会制度が旧制度から新制度に移行してから、わずか半年という旧制度と新制度の狭間に起きた。教育委員会制度は新しく変わったが、それを実行する市教委、学校側などが旧制度の悪い面を払拭(ふっしょく)することなく、そのまま踏襲した状況の最中に「事件」は起きた。この事実は真相解明を求める両親にとってはまことに不幸であった。
後から分かったことだが、男児が自殺する直前の9月29日には、学校で無記名のいじめアンケート調査があり、男児の筆跡で「いじめられている」と訴えていた。アンケートの内容を知る由もない母親が、犬の世話のため少し目を離した隙に男児がベッドにベルトを巻いて首を吊っているのを発見した。
その日の夕刻、校長、担任、市教委委員長ら7名が救急搬送された病院を訪問した。その時、両親は男児が生きて退院できることを信じて、自殺を伏せて「ベッドから落下の事故」として欲しいと学校側に依頼した。
両親の願いもむなしく男児は、1週間後の10月19日、永眠することになる。 その後、両親は事実の解明のため当初の「非公開」を止めて、公開して欲しいと何度も懇願したが、市教委・学校側は「公表すると学校内では止まらない」とか、公開してのアンケート再調査に対しても「保護者の同意が得られない」などの理由をつけ、公開に対して頑なに拒否の態度を示した。
豊見城市教育員会は、1月9日の新聞報道に後押しされるように、翌日10日記者会見し、小学4年の男児がいじめを訴えて自殺した問題で、校内児童に実施したアンケートで「いじめをしたり、いじめを見たりしたとの記述が複数あった」と明らかにした。だが、「現段階で自殺につながるようないじめは確認されていない」と発表した。
男児は、昨年9月29日、学校が定期的に行っているアンケートに「消しゴムを盗まれた。いじめられていて転校したい」との趣旨の記述をしていた。その後、11月に同じフロアに教室のある4~5年生にアンケートを実施。筆箱の中身を男児から取ったりしたことなどが書かれていたというが、市教育委によると担任の男性教諭はアンケート結果を読んでいなかったという。
校長は会見で「残念だができるだけの対応はしていた」と述べ、学校側に落ち度はなかったとの認識を示した。校長は会見で、「いじめへの対応には注意していたが、男児から相談はなく、事実を把握できなかった」と説明。担任がアンケートの内容を2週間読んでいなかったことについては、「もう少し早く読んでいたらとも思うが、1学期の終わりで、成績表を一から作らなければならない時期。そちらの業務を優先したのだと思う」と語った。
◆公表めぐり質問状
市教委はまた、11月下旬に男児の自殺を伏せて4~5年生全員に無記名のアンケートを行ったことを明らかにし、この中で9人が「(男児が)いじわるされているのを見た」と回答していたことを明らかにした。市教委はいずれも自殺との因果関係は無かったとしている。その後、2月10日付世界日報が、自殺を伏せた理由として「男児が自殺を図った時は、まだ一命を取り留めていたため、両親は男児が再び学校に戻れることを信じて『事故』として説明するよう求めた」と報道した。
ところが両親は、男児が一命を取り留めることに期待したことが市教委側の隠蔽工作の口実になろうとはその時、夢想もしなかった。男児が死亡した約1カ月後、両親は真実解明のため「自殺を公表してもいい」と何度も伝えたにもかかわらず、学校は引き続き自殺を公表しようとはしなかった。男児の自殺の理由の解明に非協力的な学校と市教委の隠蔽体質に対して、両親は不信の念を募らせた。
こうした対応を受け、市教委の記者会見後、市教委や学校側に問い合わせをするときは弁護士を通じて文書で行うようになった。1月10日、両親は豊見城市が設置した「いじめ問題専門委員会」に対し次のような趣旨の質問状を出した。
「市教育委の記者会見で、わずか1カ月余しか経過していないにもかかわらず、市教育長は、『専門委員会からの報告によれば』として、本件事案では『いじめはない』『自殺に結びつくようないじめはない』と記者発表した。仮に教育長が述べているように、貴委員会が、最終報告書の前に、豊見城市(教育委)などに、中間報告などの情報提供をしているのであれば、一方当事者である豊見城市に加担するものであり、貴教委の存在意義を自ら踏みにじるものである」
さらに、担任がアンケートを確認していなかったという証言で食い違いがある。電話通信記録などを取り寄せた上で、1月29日、校長・県教育庁義務教育課あてに文書を送付した。
これまで両親の質問に対し曖昧な対応に終始していた市教委から2月4日付公文書で、「いじめ問題専門委員会が最終結論を出していない中、審議途中の報告を行った事は適切では有りませんでした。なお、最終結論は出しておりません」という回答を受け取った。
◆教委は虚偽の報告
結局、市教委は、1月10日の記者会見で、担任の責任の有無について結論が出ていないにもかかわらず、「自殺との因果関係は無かった」などと虚偽の報告をしたことになる。2月になって、市教育委や学校側の隠蔽体質に疑念を持ちながらも、子息の自殺の真相が知りたいと模索している両親の元に驚くべきニュースが入った。
昨年11月に設置された「豊見城市いじめ問題専門委員会」の構成委員である6人の有識者が全員辞任したというのだ。同委員会は平成29年11月23日まで任期を残しているにもかかわらず、男児の自殺の原因について最終結論を保留したままの辞任という無責任さだ。市教育委員会は辞任の理由は不明だという。
新教育委員会制度に変わって、従来は教委とは組織上無関係だった首長が直接指揮・指導力を発揮できるように改正されたにもかかわらず、教育行政の最高責任者である市長や現場を一番熟知しているはずの担任の顔が見えず、両者の間に介在する市教育長や校長・教頭らが責任転嫁や証拠隠滅に終始する姿を見て、辞任したくなったのではないかと推測できる。
いじめ問題とは直接関係ないが、八重山教科書問題で、教職員組合と結託した教育委員会とたたかって新教育委員会制度誕生の一端を担った、元石垣市教育長の玉津博克氏は、昨年4月に実施された新制度への移行について、「新制度に変わっても、職員たちは旧態依然として学校との癒着を断ち切れず、仏作って魂入れずだ」と嘆いていた。
男児の両親は「何が息子を死に追いやったか」が知りたいと唇を噛む。犯人探しより真相の解明こそが亡くなった子息への何よりの供養だと信じているからだ。
(コラムニスト・江崎 孝)