危機的な北朝鮮の人権状況
国連の元「拷問問題特別報告者」ノバク教授に聞く(上)
国際刑事裁への提訴を支持
北朝鮮最高指導者の金正恩第1書記は国際社会の批判にもかかわらず核実験を実施、長距離弾道ミサイルを発射し、軍事力の強化に乗り出す一方、国民への締め付けを強め、国内の人権状況はもはや静観できないほど悪化している。そこで元国連拷問特別報告者であり、人権問題の国際的権威、ウィーン大学法学部のマンフレッド・ノバク教授(65)に北朝鮮の人権問題の現状と国際社会の課題などについて緊急インタビューした。(聞き手・小川 敏)
教授は国際法と人権問題の専門家だが、テロの定義と同様、人権の定義も多種多様だ。まず「人権の定義」を説明してほしい。
人権は国際条約の中でかなり明確に定義されている。人権は、公民の、政治的、経済的、社会的、文化的、そして連帯的な権利を総合したもので、国連人権憲章のほか、児童の権利、障碍者の権利、女性や民族の差別保護など多数の特別な人権憲章がある。同時に、欧州、アフリカ、米国では地域的な人権規約がある。また、国家的レベルでも存在する。例えば、ドイツの基本法だ。各国の憲法の中には個別で明記された権利も人権に含まれる。
今回の会見テーマ、北朝鮮の人権問題について聞きたい。北朝鮮の人権状況は世界で最悪といわれている。教授は北朝鮮の人権状況をどのように受け止めているか。
世界で人権が最も蹂躙(じゅうりん)されている国はどこかと聞かれれば、最初に北朝鮮の名が挙げられる。なぜならば、北朝鮮は独裁国家だからだ。20世紀の国家社会主義やスターリン主義を想起させる独裁国家だ。北朝鮮の人権状況を記述した多数の報告がある。特に、国連の北朝鮮人権調査委員会の報告内容は非常に強烈だ。2014年に設置された同委員会の人権報告書は北朝鮮の人権状況が非常に危機的であり、絶望的であると明記している。
世界のキリスト信者の迫害状況を発信してきた非政府組織、国際宣教団体「オープン・ドアーズ」が公表するキリスト教弾圧インデックスでは北朝鮮は毎年、最悪の「宗教弾圧国」に挙げられている。
独裁政権は国民の個人的な生活領域までコントロールする。すなわち、監視システムだ。宗教活動もその対象となる。宗教の活動は意見の表現として解釈され、金王朝の正統性に疑問を呈する行為として受け取られる。だから、弾圧の対象となるわけだ。
北朝鮮はジュネーブの国連人権理事会に出席し、人権批判に対して弁明する予定だ。北朝鮮はこれまで人権問題を追及されると、主権国家への内政干渉と反論してきた経緯がある。
独裁国家が人権問題を追及されると繰り出す古典的な反論だ。その反論は間違っている。国連憲章第2条7節には「本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国際連合に与えるものではなく、また、その事項をこの憲章に基く解決に付託することを加盟国に要求するものでもない」という個所が記述されている。しかし、その国内管轄権条項の内容は今日、有効ではなくなった。すなわち、国内管轄権条項はその後、非常に変わってきた。例えば、北朝鮮は国連児童憲章を批准した。だから、その内容は拘束力のある義務だ。児童権利委員会は北の児童の権利の履行状況を検証できる。北朝鮮が同憲章を批准することで自主的にその義務を負ったからだ。
国連人権理事会は2006年、人権状況検証の最高機関として設立された。例えば、普遍的定期審査(UPR)では加盟国は定期的にその人権状況の検証を受ける。人権理事会が北朝鮮の人権状況に懸念を指摘した場合、人権特別報告者を召命し、調査委員会を設置する。理事会が加盟国の多数決に基づいて法的に許された対応だ。そうなれば、北朝鮮は原則としてその委員会と連携しなければならない。しかし、北朝鮮は過去、連携を拒否し、国連特別報告者や北朝鮮の人権状況を調査する国連の調査委員会(COI)の現地調査を認めなかった。国連加盟国としては考えられない対応だ。
北朝鮮の人権問題を担当するダルスマン国連特別報告者は、金正恩第1書記に「人道に対する罪」で調査される可能性があると通告するよう人権理事会に求め、同第1書記を国際刑事裁判所に訴える可能性を示唆している。
北朝鮮の人権蹂躙が最悪状況であり、人道への犯罪と言えるからだ。特に、政治収容所では拷問や抹殺、殺害、横暴な拘禁などが行われている。それらは組織的に行われている。これは国際刑事裁判者の第7条の「人道に対する犯罪」に該当する。国連安保理が北朝鮮問題を国際刑事裁判所に委ねることを決定すれば、私は重要な一歩として支持する。国際刑事裁判所には例外条項がない。追及の手はもちろん最高指導者まで及ぶことになる。