たばこポイ捨て対策は課税強化で

エルドリッヂ研究所代表、政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ

吸い殻が最大のごみ問題
海洋に流出される有害物質

ロバート・D・エルドリッヂ

エルドリッヂ研究所代表、政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ

 コロナ禍にあって自宅で過ごす時間が多くなり、健康管理のため近所を散歩する人たちが増えている。筆者もその中の一人だが、ゆっくり歩くと気付くことが多い。その一つは、たばこの「ポイ捨て」だ。日本ではあまり知られていないが、たばこの吸い殻は最大のごみ問題だ。世界中のポイ捨てごみのうち、吸い殻は38%を占めており、先進国ではおよそ50%を超えている。なお、「吸い殻」のごみには、たばこの箱、プラスチックなどは含まれていない。それらを入れると、たばこによるごみはさらに増加する。

世界で毎年4兆超投棄

 50%は予想外に多い数字だが、屋内も路上も禁煙になり、喫煙場所が限られると、「歩きたばこ」でポイ捨てをすることや、最終的に川、海などに流れていることが簡単に想像できる。75%の喫煙者は「ポイ捨て」したことがあると認め、読者はきっとその場面を目撃したことがあるだろう。

 実は、私は毎日、2回ほど愛犬と40分間の散歩をしている。毎回ほとんど同じコースであるが、いつもごみ拾いしている。やはり、数的に一番多いのは吸い殻だ。たばこを吸わない人間として喫煙者のマナーの悪さはとても納得できない。

 世界で、約5兆2千億~5兆6千億本のたばこが毎年生産されている。そのうち90%、すなわち4兆9500億本はフィルターが付いている。6兆5千億本が販売されているという数字もある。購入されたたばこのうち、何と4兆3千億~4兆5千億の吸い殻が毎年捨てられている。これらは、環境被害、健康被害をもたらし、医療や清掃のコストもかかるため、地域の財政にも悪影響を与えている。

 現在、プラスチックのファイバーでフィルターが作られており、細かく加工されているため、その重さは85億㌧と推定されている。残念ながら、フィルターは非生物分解性であり、雨や日光で完全になくなるまで12年もかかる。しかし、その有害物質は消えない。たばこそのものも有害物質であるが、有機体であるため、生物分解できる。

 吸い殻は、鉛、ヒ素、カドミウムなどの有害物質を海洋に流出させている。しかも、水に触れると、60分以内に漏れ始める。この有害物質は、私たちが使用する水、または動物が住む世界の水に入り込んでしまう。植物の成長に被害を与え、エコシステムそのものに悪影響を与えていると分かった。

 中でも道路側溝の周辺のポイ捨てが多く、そのまま流れていく。ポイ捨ては昔からの問題だが、ますます深刻になっている。さらに、環境はさまざまな問題に直面しており、この新たな挑戦は大きな負担になっている。

 たばこによるそれ以外の環境被害として、タバコ栽培で使用する殺虫剤がある。また、たばこ用の紙、箱や燃料に必要とする6億本の木が伐採されている。これは全世界で伐採される木の6本のうち1本はたばこのために使用していることを意味する。

 吸い殻は、鳥、魚、鯨やその他の動物の体内で発見されている。有害物質を摂取するか、喉に詰まらせるかして、消化ができなくなる。これらの場合、ほとんどが死んでいく。また、小さい子供も吸い殻を飲み込むと、死亡するケースまである。

 喫煙者の多い日本には大きな責任がある。禁煙などさまざまな規定ができているものの、その規制は徹底していない。言うまでもないが、直接的な責任はポイ捨てする個人にあるが、たばこ業界にも大きな責任がある。「生産者の責任」「科学物質の総合安全管理」を完全に放棄していると思われる。

罰金科すだけでは不足

 たばこは、健康問題から、迷惑問題になり、現在は環境問題にまで発展している。その背景で、たばこのごみによる清掃の必要性から、市内で販売するたばこに対して課税する地方自治体は母国アメリカで増えている。日本では、一部の自治体は罰金を科しているが、現状では足りない。

 ポイ捨て対策として、罰金だけでなく、国や地方による追加的なたばこ税を検討すべきだ。そもそも国際的にみた場合、日本で販売されているたばこは安いので、上記の健康問題や環境問題を考えると、1本に対して30円までの新たな税金を科すことはフェアだと思う。アンフェアと思ったら、たばこ、少なくともポイ捨てをやめればいいのだ。