対韓関係進展の裏にある中国の思惑


韓国紙セゲイルボ

米との対立で切実な“仲間探し”

 最近、韓中関係が2017年のTHAAD(高高度防衛)ミサイル配備をめぐる対立以後の上昇傾向にある。私席で会ったある中国人教授は、「THAAD当時と比べて非常に進展した」と評価した。また「両国政府はもちろん両国民の間でも善意の感情が増えた」と言った。

文在寅大統領

韓国の文在寅大統領=6月22日、ソウル(EPA時事)

 中国と中国人に対して韓国人の間で友好的な感情が増えたという意見に対しては個人的に同意しにくい。しかし(韓国に対する)中国の感情が大幅に柔らかくなったことは事実だ。これは中国政府の政策でも明確である。

 今月5日、韓国人に対する中国政府のビザ発給業務が再開された。3月28日に国境を閉じてから5カ月。新型コロナウイルスの感染拡大以後、外国人の入国を禁止してきた中国政府が最初に入国緩和した国が韓国となった。

 「限韓令」解除に対する期待感も芽生えている。中国中央テレビは最近、中国シェフらを招待して韓国料理を紹介する番組を放送した。7月25日に開幕した第23回上海国際映画祭では韓国映画5編が招待されたりもした。コロナのため延期された習近平国家主席の訪韓も実現するものと見られる。

 このように明確に変わった両国関係を見ると「国際社会には永遠の敵もなく、永遠の友もいない」という言葉がいまさらながらのように思い浮かぶ。

 最近の両国関係進展は国際情勢に影響された面が強い。米中関係が悪化して中国は国際社会での“仲間探し”が切実だ。国境紛争でインドは背を向け、香港問題などで西側諸国とも対立を生んでいる。常に中国寄りだったアフリカ諸国もコロナ感染当時の差別論議などで反中感情が広がっているという。香港・ウイグルなど人権問題で中国政府を支持する国は独裁と全体主義国家だけだ。事実上、全世界が背を向けているわけだ。

 しかし、国際的な力学関係は状況が変わればいつでも変わり得る。特にTHAAD報復以後、(中国が)恵みを施しているように見える現在の関係は、中国の考えが変われば対立はいつでも起こる。

 中国は米国の中距離核戦力全廃条約(INF)脱退以後、米軍の中距離弾道ミサイル配備地域を注意深く観察している。すでに配備国には報復を公言した。トランプ米大統領が主導するG7(主要7カ国)首脳会議拡大に対する韓国政府の対応にも神経を尖(とが)らせている。両国間の地雷原は数えきれないほど多い。

 また別のある中国人教授は最近の韓中関係進展には米中貿易戦争と米中関係悪化が相当な原因になったと言った。では「米中関係が良くなれば韓中関係はまた悪くなるのか」と反問すると、彼は苦笑いして答えなかった。誰が見ても中国の心中は明らかだ。

 中国は好むと好まざるとにかかわらず共に生きてゆかなければならない隣国だ。だから韓中関係の浮沈に大げさに騒ぐ必要もない。どっしりと構えていることだ。ビザ業務再開の初の対象になったことは韓国政府の努力も見逃せないが、中国政府の計算もある。

 韓中関係の長期的な目標と戦略を設定し、短期的な戦術と手段を固めて、ブレない対中外交を維持することが最も重要だ。

(イ・ウスン北京特派員、8月10日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

空念仏の「ブレない外交」

 韓国と中国は常にある種の緊張関係にある。歴史的、地理的に近く、東アジアの華夷秩序の中で独特な関係と距離感を取ってきた。

 今日、自由対共産の体制の戦いとなって、自由民主主義陣営に属する韓国の悩みは深まった。米中衝突のはざまに入ってしまったからだ。よく言う「鯨の戦いでエビの背が裂ける」という境遇だ。

 米軍のミサイルを配備すれば、中国は米国でなく韓国を圧迫してくる。トランプ米大統領からプレミアムなテーブルへの招待を受ければ、内心狂喜しながらも中国の顔色も気になる。「限韓令」が少し緩められれば、喜んでしまう自分がいる。

 経済からいえば対中関係はいまや韓国の生命線だ。しかし、体制の戦いとなれば、韓国は自由陣営につかざるを得ない。その一方で現在の左派政権は対北朝鮮政策、統一政策で中国の役割を重要視している。米中双方から「どっちにつくのか」を常に突きつけられている。

 そこで出てくるのが「バランサー論」だったり、「ハブ国家」論だったりする。しかし、どれも身の丈を超えた大仰な国挌だ。イ特派員が言うような「長期的な目標と戦略」はもはや空念仏と化している。誰もが言うが立てられたためしがない。また政権が変わるごとに新しい理屈を付けたがるから「ブレない外交」自体が無理だ。だから韓国は確実に変わらない組む相手を得るしかないのだが…。

(岩崎 哲)