人口減少歯止め策 あの手この手 ー 福井県
「静かなる有事」へ有効打模索
若者の県外進学が深刻

取材に応じた(左側から)野田瑞穂・交流文化部定住交流課総括主任、大西典宏・健康福祉部子ども家庭課課長補佐、大澤優・地域戦略部未来戦略課課長補佐、田中智美・地域戦略部県民活躍課参事、原淳一郎・交流文化部定住交流課総括主任=9月17日、福井県庁前で
福井県の人口は令和3年9月1日現在、76万1306人。47都道府県の中で、43番目の規模だ。2000年の国勢調査での82万8944人をピークに年々人口は減少している。「静かなる有事」と言われるこの問題に、県はさまざまな施策を打ち出している。担当者に聞いた。
(青島 孝志 写真も)
「縁結び」企画で出生率アップ
お城跡にある福井県庁を訪ねたところ、5人の実務担当者に迎えられた。
福井県にとって、人口減少問題はどのような位置付けか。この質問に、大澤優・地域戦略部未来戦略課課長補佐は、「もちろん、最重要課題として取り組んでいます」と明言。
「人口減少対策抜きの部署はないと言っていいほど」と交流文化部定住交流課総括主任の野田瑞穂さんは述べた。
県は、平成27年に、令和元年までの5年間の「第一期ふくい創生・人口減少対策戦略」を策定。その冒頭に、「全国トップクラスの合計特殊出生率の維持」を掲げた。これを実現するため、独身男女の出会いをサポートする「地域の縁結びさん」(令和2年3月、291人)や「職場の縁結びさん」(同、565人)を登録し、縁結び相談会やイベントの開催により、地域・職場での交流拡大に精力的に取り組んだ。
さらに、結婚や家族の良さを伝える「いいね!結婚ふくいキャンペーン」を進め、県民の結婚を応援。その成果として、県の支援事業による婚姻件数は、平成27年の74件から、令和元年には2倍以上の169件にまで伸びた。戦略期間中の5年間の合計特殊出生率は、全国平均を約0・2上回る1・6前半で推移。全国順位も、7位~11位という上位を占めたのである。
子育て世代への経済的支援強化
同時に取り組んだのが、子育て世代への経済的な支援強化だ。
福井県は全国に先駆けて、第3子以降の保育園等の無料化を進めてきた成果を踏まえ、県内の市町とともに対象の第2子への拡充など多子世帯への支援を強めた。また、子供が小さい間は自宅で子育てできるように、と育児休業や短時間勤務などの所得をサポートする助成金制度を拡大。不妊治療費に対する助成をはじめ、妊娠から出産・育児までの切れ目ない支援に取り組んだ。
平成27年から令和元年までの間に、特定不妊治療助成件数は、6249件。「すみずみ子育てサポート」一人当たりの利用時間も平成27年の4・2時間から、令和元年の4・7時間へと増えたのである。
UIターンの県内定着を促進
県は福井、東京、大阪、名古屋、京都に「福井暮らすはたらくサポートセンター」を設置。ここは、仕事や住まい、引っ越しまでをトータルにサポートする拠点で、「幸福度日本一」の生活環境や雇用環境の良さをアピール。さらに、「人材開拓員」を配置して、企業や移住イベントに出向き、移住希望者の掘り起こしをし、移住就業・起業への助成制度を創設した。
その結果、同センターの相談件数は5822件(平成27年度)から、1万362件(令和2年度)と大幅に伸びた。実際、UIターン者の数は460人(平成27年度)から、1004人(令和2年度)へと大きく上昇した。
県内就職の促進のため、本社機能の県誘致、県内進学応援など多彩な取り組みも展開。現在、杉本知事が音頭をとり、部署を超えて若手職員が集うタスクフォースを立ち上げるなど、福井県は、人口減少問題に対して考えられる限りの「フルコース」ともいえるメニューを用意して取り組んでいる。
ユニークなところでは、「どこでも移住」プロジェクト。これは2018年10月1日~19年3月31日の半年間、日本各地の5市町村を移り変わりながら家賃無料で「暮らし」を体験できる、という実験的な体験移住プログラムだ。
対象となる市町村は、徳島県阿波市、長崎県壱岐市、長野県木曽町、沖縄県国頭村、福井県鯖江市の5市町村。
好きな時に訪れ、好きな時に移住し、好きな時に帰っていい。起業や就農支援、ワークショップなどのプログラムはないが、各地のコーディネーターが空き家探しや人脈づくりをサポートするという“ゆるい”仕組みが話題となった。
「移住戦争」を超えて
しかし、こうした努力にもかかわらず、2020年10月1日に実施された国勢調査の速報値で見れば、5年前の同調査の時点より男性は7402人減、女性は1万1905人減という。実は、地方は深刻な構造的な課題を抱えているという。大澤優・未来戦略課課長補佐が語る。
「県内の高校3年生7、8千人のうち、大学進学者は約4千人。県内大学の定員は約2500人なので、最低でも約1500人が県外に流れてしまう(実際は、毎年3千人近くが県外の大学に進学)。ところが、東京都には都内高校生の数の何倍も収容できる大学がある。福井の大学でも新たな部を新設するなどの取り組みをしているが、この構造的な課題を改善してもらわない限り地方の若者減少に、歯止めが掛からない」
毎年、3000人強の若者が県外進学をし、UIターン事業を通じて、年間約1000人弱が県内に戻るという。
地方にはこれから結婚し家庭を持つ若者の数が年々、減っていく一方、若者が集まる東京都の合計特殊出生率は1・15(令和元年)と年々減少傾向にある。このように、都会でも地方でも新たな命が生まれにくい枠組みが続いている。
現在、どこの自治体も、「こっちの水が甘いぞ」と、“移住戦争”が真っ盛りだ。その施策を否定するつもりはない。だが、今こそ自治体や県の垣根を越えて、人口減少国家を克服するための抜本的なグランドデザインを描き、実践する時を迎えているのでないか。