今こそ日本人の本領発揮へ 変革の時に問われる「人間力」


作家・石川真理子さんインタビュー

 自己主張は苦手だが、協調性に富むのが日本人の「強み」とよく言われる。しかし、「3密」を避けることが求められるコロナ禍では人と人との交流が減っている。その影響か、孤立感を深めたり、“コロナうつ”を訴える人も少なくない。

 ウィズコロナ時代の「非日常」でも、自分を見失わず心豊かに生きるための「人間力」や知恵について、人間教育に尽力する、武士道を研究する作家の石川真理子さんに聞いた。
(聞き手=森田清策)

世界に武士道発信する好機
「ウィズ疾病」で培った知恵生かせ

武士道研究家で作家の石川真理子氏

いしかわ・まりこ 1966年、東京都生まれ。祖父方が仙台藩士。祖母方が米沢藩士。12歳まで祖母中心の家で、武家に伝わる薫陶を受けてきた。文化女子大学卒業(現・文化学園大学)後、大手出版社勤務を経て独立。結婚後も執筆活動を続ける。武士道研究家でもあり、オンラインなどで講座を持つ。著書に『女子の武士道』『武士の子育て』(共に致知出版社)など多数。

武士道をはじめ、日本の歴史を研究している石川さんの目に、パンデミックによる日本と世界の混乱はどう映りましたか。

 いよいよ日本人の本領を発揮する時だと思いました。不謹慎に聞こえるかもしれないが、「よし来たぞ!」と、本当にそう思いました。

 ウィズコロナの中でも、日本は発展することができます。なぜなら、「ウィズ疾病」を民族として続けてきた歴史と、そこから培われた文化があるからです。ロックダウンした国よりも、被害者の数を奇跡的に少なく抑えることができているのも、そこに一つの要因があります。

 それを目の当たりにすると、聖徳太子の十七条憲法にまでさかのぼる、人と争わず和を尊ぶ精神を、いよいよもって世界に示していく時だと確信しています。

ウィズ疾病の中で根付いた文化とは。

 日本の長い歴史を鑑みると、疾病の歴史がありますが、その時どうしたでしょうか。神様としてお祭りしたのです。八坂神社(京都祇園)の祭神、牛頭天王は疫病を思いのままに起こす一方、疫病を防ぐ神様。疱瘡(ほうそう)神など、日本には疾病の神様がかなりあります。

 ここには病を排除せず、神様とお祭りして共存しようとする考え方があります。良い意味で白黒はっきりさせずに調和を目指す日本人の民族性の表れです。

 私はかつて医療ジャーナリストとして、免疫学と自然免疫を高めることによって病気を治すことを学んだので分かるのですが、ウィズ疾病の考え方は、総合医療やホリスティック医療などにつながっています。

 一方、西欧はウイルスを「敵」とみなし、化学的な攻撃で、感染者を治療します。しかし、これはサイトカインストーム(免疫暴走)を起こして大勢の死者を出しました。

義務ではないのに、日本人はほぼ全員がマスクを着用しています。

 感染を防ぐという意味だけでなく、マスク着用には他者に対する思いやりがあります。周囲の人に余計な恐れを与えないためのマナーと言ってもいいですが、これが「礼」で、日本人はそれを先祖から受け継いでいます。この精神文化を自覚と自信を持って世界に示していく時が来ているのです。

このほか、コロナ感染の深刻化を防いでいると考えられる日本文化は。

 日本人は清潔好きです。その生活文化が凝縮されている「茶の湯」で、一番重要なのは衛生であること。神社仏閣でも参詣者が手や口をすすぎ清めます。

 また、わかめ、昆布をはじめ海藻類を多く食する習慣がありますが、これらには免疫力をアップさせる成分が多く含まれます。日本で、コロナ感染被害が奇跡的に少なく抑えられたのは、こうした日本の生活習慣が大きく影響していると思います。

 一方、海外の多くの人は、パンを手で持って食べる、あるいは家に土足で入ります。そうした生活習慣が裏目に出たのがパンデミック。世界で衛生観念が見直されています。

いわゆる“コロナうつ”になる人が増えています。

 パンデミックの中で生き延びる知恵が問われているのだと思います。物事を一方向からだけ見てはいけません。

 「コロナ禍は大変だ」と報じるメディアだけ見ていれば、ひどく悲しくつらい時代にしか見えませんが、良いこともあります。リモートワークが増えて満員電車に乗らなくてよくなったではありませんか。

 政府が「働き方改革」といくら叫んでもちっとも変わりませんでしたが、コロナ禍によって半年で働き方が変わりました。地方の良さが見直されてもいます。「ほら見たことか」と、私はもう痛快でしかありません。

 会社ではパソコンの使い方が苦手な上司から「これやって」と居丈高に命令されることもあります。「自分はパソコンをうまく使えないから、やってもらえるか」という言い方をすべきなのが本来、上に立つ者の言い方でしょう。

 「親しき仲にも礼儀あり」。これを機に、上の立場の人間は、謙虚になって若いに人に学ぶべきです。それはコミュニケーションにもなるし、若い人も元気になります。

 ただ、人間に弱いところがあるのも事実。そこは文明の力をうまく利用し、オンラインでもいいから人とつながることも考えないといけません。

コロナ禍を乗り越える上で、武士道に学ぶことは。

 江戸中期に書かれた書物『葉隠』に「武士道とは死ぬことと見つけたり」という言葉があります。私自身がそうだったのですが、人は死を意識した時に、本当の人生が始まります。

 死は誰にでもやって来ます。その意味では「平等」ですが、不条理でもあります。しかし、それを静かに受け入れることによって、一日一日が人生であり、その人生も一度限りなのだと気付き、一日一日を大事に生きようと思うようになります。

 自分の人生なのに、「自分で決めることができない」と言う人がいます。それは、人生をひとごととして捉えているに等しく無責任で、(命を与えてくれた)天に唾する行為です。逆に、コロナ禍で死を意識し、「自分が人生の主人」と自覚する人が増えれば、世の中はいい方向に向かうはずです。

オンラインでの講演活動を行っていますが、ライブと講演との違いは。

 私は昨年2月、武士道などについて、オンライン講座を始めました。意外に思うかもしれませんが、オンラインの方が、心が伝わるようです。大勢の前で話すライブ講演と違い、画面に映るのは私だけ。受講者は自分一人に語り掛けている、と錯覚するのかもしれません。

 なので、私の元に届く感想も激変しました。武士道は、自分と切り離されたものではなくて今、必要なものだと理解できた、あるいはこれまでは自分のことを大事にすることができなかったが、自分のことがすごくいとおしいと思えるようになった、と。

 なぜ武士道を学ぶと肯定感が高まるのでしょうか。武士が合戦に行ったら、自己否定している場合ではありません。必死に戦うことは、全力で自分を肯定することだからです。

自己肯定感を持てない人は武士道を学んだ方がいい、と。

 私はそう思っています。意識が外側に向いてばかりいると、自己肯定感を持つのが難しくなります。武士道は自己内観で、自分と向き合い、子供の頃から立ち居振る舞いを徹底的にしつけられます。

 それを繰り返していくと、自分を客観視できるようになります。心が動揺した時も「今、動揺している」と、もう一人の自分が冷静に心の動きを見詰めることができ、「動揺したな」と思ったら、呼吸を整えて落ち着くことができます。

 ウィズコロナ時代は古いシステムは壊れる時代です。この大変革の時に、自己否定している場合ではありません。

オンラインは、武士道を海外に発信しやすくしています。

 日本人は(新しい文明を)受け入れるのがうまい民族です。受け入れて本質を守りながら、自分たちの色、形にアレンジしていく。デジタル化に抵抗する人は少なくありませんが、私は固定観念を外して受け入れ、自分たちの形を作っていけばいいと思います。

 私のオンライン講座には、カナダ、ミャンマー、オーストラリアなど海外在住の方にも受講していただいています。海外に武士道を広げたいと思っても、たとえ現地に1週間滞在したところで、武士道を伝えることは難しい。それがオンラインで一気に道が開けました。

 日本がダメになったら、世界がダメになります。日本人が日本の心を伝えずに、誰がやりますか。