観光大国復活の兆し 夏季シーズンのブラジル


 「今年のバカンスシーズンの売れ行きは驚くほど好調です。東北部のビーチリゾートなど、一部の観光地は年末の予約がすでに埋まっている状態です」。ブラジル最大手の旅行会社CVSの営業担当者が説明する。まだ昨年11月に入って間もないころの話だ。

2020年の新年を祝うコパカバーナビーチの花火(Fernando Maia/リオデジャネイロ市観光局)

2020年の新年を祝うコパカバーナビーチの花火(Fernando Maia/リオデジャネイロ市観光局)

 ブラジルの年始と言えば、リオデジャネイロのコパカバーナビーチなどで打ち上げられる花火を含む年越しイベントの「レベイロン」があまりにも有名だ。今回は、コンサートなどは中止されたが、花火は感染対策を取った上で再開される。年末すでに打ち上げ会場に近いホテルでは満室予約が続出する賑(にぎ)わいだ。

 ブラジル観光の目玉は、美しいビーチやアマゾン、パンタナルの自然とカーニバル、音楽などの自然・文化分野だ。自然・文化観光資源では、世界6位の観光競争力を持っており、新型コロナウイルス感染拡大の前には年間600万人以上の観光客が世界各地から訪れていた。

 コロナがブラジルで猛威をふるった2020年、ブラジルでは5万社を超える観光関連の業者が倒産、50万人を超える観光業に携わる人々が職を失った。

 昨年7月の観光収入成長率は、史上最悪のマイナス76・5%(CEIC・DATA)を記録した。さらに同月、ブラジル国内便を運行する大手3社のうち、中南米最大の航空会社「LATAM」(本社チリ・サンチアゴ)が会社更生法を申請して業界を震撼(しんかん)させた。

 米州開発銀行(IDB)によると、ブラジルの観光業界の経済規模は、国内総生産の約8%に相当する。それだけに、コロナによる世界的なパンデミックは、ブラジル経済と観光業に甚大な打撃を与えた。

 オミクロン株が国内で確認されるなど、懸念材料はあるが、コンサートやサッカー観戦、外食などのレジャー産業が本格的に戻りつつあり、市民が見せる笑顔と市中の活力には、「新型コロナを克服した」との自信も垣間見える。

 こうした背景を受け、ブラジルの観光業界は、昨年後半から驚くほどの復活を見せつつある。現在、南半球のブラジルは、バカンスシーズンの真っただ中だ。学校の夏休みに加えて、クリスマスとニューイヤーが一緒になる年末年始には、バカンス休暇が集中する。もともとビーチを求めて冬の北半球から訪れる海外からの旅行者も含めて、ブラジル中の観光地とホテルが最も賑わう時期だ。

 もちろん、観光産業の本格的な復活には、多くのハードルが残る。世界的な新型の変異株の流行に加えて、ブラジル入国にワクチンパスポート(接種証明)が必要になることが、海外観光客の増加に歯止めをかけている。

 こうした中、観光業界を支えているのが、国内旅行に対する旺盛な需要だ。ドル高で海外旅行が割高となることも、国内旅行への人気を後押ししている。

(サンパウロ・綾村 悟)