スペイン観光"失われた時"を回復へ


クルーズに閉塞感打破の期待

 2021年5月、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除となったスペインでは、直ちに、安全・信頼・品質をスローガンに、外国人観光客誘致のキャンペーンをスタートさせ、官民一体となって“失われた時”の回復に力を注いでいる。(マドリード・武田 修)

クルーズ船内で憩う乗客ら

クルーズ船内で憩う乗客ら

 外国人観光客のみならず、国内でもその動きは早かった。日本のGoTo政策のような特別な優遇策は打ち出さなかったが、単に人の移動やホテル、レストランなど観光関連業種の規制を緩和するだけで昨年夏季のバカンス・シーズンには、これまでの規制による鬱憤(うっぷん)を爆発させるかのように、多くの人が地中海岸のリゾート地などに押し掛けた。

 同じくバカンスに出掛けた知人らも、口々にコロナ以前の水準さえ上回るほどの活況だったと言い、マスコミもテレビや新聞でその模様を報道した。

クルーズ観光はスペイン経済活性化のシンボル

クルーズ観光はスペイン経済活性化のシンボル

 キャンペーンの成果は数字にも表れ、9月の外国人観光客は470万人を突破、前年(20年)同期の4倍にも達している。ちなみに19年にスペインを訪れた外国人訪問客は、過去最高の8370万人を数えたものの、世界に蔓延(まんえん)する新型コロナウィルスの影響で、20年は1896万人にまで激減した。

 ここ半年や1年でコロナ禍が終息しないことは誰の目にも明らかであり、スペインもコロナとの共生が求められる状況にある。スペインでは、観光はコロナとの共生における経済活性化のシンボル的な存在と位置付け、中でもクルーズ観光は、コロナ禍のさまざまな規制による閉塞(へいそく)感から多くの人が開放され鬱憤を晴らせる最大のツールであると考えているようだ。

緊急事態宣言が解除され、市民は外出して会話を楽しんでいる(2021年、マドリード市内にあるレストラン)

緊急事態宣言が解除され、市民は外出して会話を楽しんでいる(2021年、マドリード市内にあるレストラン)

 この間、運航中止を余儀なくされていた大手クルーズ会社も、緊急事態宣言解除後、徐々にその再開が認められ、政府のコロナ共生政策と相まって、クリスマス、今年の正月から夏季シーズンまでを視野に、旅行業者とタイアップして大きく動き始めている。

 地中海の最西岸に位置するスペインは、イタリアと共にヨーロッパのクルーズ大国である。地理的条件からも推し量れるように、スペイン発の全クルーズの90%以上の目的地は地中海と大西洋に浮かぶカナリア諸島が占めている。“クルシスタ”(「クルーズ好きの人」の意)と呼ばれる利用客数は、コロナ以前の19年の統計によると、1066万人を記録。48万人だった25年前の約22倍にも膨らんでいる。