大学入試の抜本的改革を 下村博文・文部科学大臣に聞く

 下村博文・文部科学大臣(教育再生、東京オリンピック・パラリンピック担当)はこのほど文部科学省大臣室で本紙のインタビューに応じ、これから推進したい教育改革として「大学入試制度」を挙げ、「抜本的に改革したい。100年に一度くらいの大改革だろう」と意欲を示した。また「日本遺産」を創設し、国内外の観光客の倍増を目指していく考えを示した。(聞き手=編集局次長・政治部長 早川一郎、社会部次長 岩城喜之)

 ――これから推進していきたい教育改革は具体的にどのようなものか。

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しもむら はくぶん 昭和29年生まれ。早稲田大卒。東京都議を経て、平成8年から衆議院議員。自民党副幹事長、内閣官房副長官などを歴任。第2次安倍改造内閣で文部科学大臣留任。現在、6期目。

 歴史をつくることをいくつかしたい。

 日本の子供たちは自分に自信がない。日本青少年研究所の調査で、「自分がだめな人間だと時々思うことがある」という質問に「イエス」と答えた高校1年生が84%いた。米国、中国、韓国でも同時に調査したが、日本だけが圧倒的に自己否定感が高かった。

 自分という存在が社会でも価値ある存在であると思い、人生を有為に過ごすことができる教育をしなければ、何のための教育だろうか。だから、自己否定感を持つような子供をゼロにする教育をしていきたい。そのためには抜本的な教育改革をしていく必要がある。

 なぜ自己否定感が強いかというと、子供たちにとって、我々が思っている以上に物差しが一つしかない。学力一辺倒で閉塞(へいそく)感がある。その学力は暗記、記憶力中心の入学試験だ。それも必要だが、社会に出ると多様な能力が求められる。

 社会で必要な能力を学校教育の中でしっかりと伸ばして送り出さなかったら、何のための学校教育かということが問われる。

 だから大学入学試験を抜本的に改革していきたい。暗記、記憶力中心の入学試験だけではなく、その人の持っているトータルな能力をどう計るかという入学試験だ。ぜひ、これを残りの任期の中で実現していきたい。100年に一度くらいの大改革だろう。

 ――今国会では、どういう法案の成立を目指すのか。

 大学入試改革については、すでに教育再生実行会議で提言され、いま中央教育審議会(中教審)の中で議論していただいている。これは我が国の本質的なことに関わることだから、もう少し議論が必要だ。

 今国会では、2020年東京オリンピック・パラリンピック大会を成功させるための特別措置法案と2019年のラグビー・ワールドカップ特別措置法案の二つの関連法案提出を予定している。

 ――文部科学大臣になって15回、14カ国を外遊した。その主な成果と、これから外国に行く予定、目的は。

 安倍首相は「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」ということで、歴代の総理と比べて最も精力的に外遊されている。文部科学省は国内的な内容が多く、歴代の文部科学大臣は年に1、2回くらいしか海外に行かなかったが、私はかなり多く海外に行っている。

 それだけ教育や文化、科学技術の分野において、日本一国の問題ではなく、世界の国々と一緒に取り組まなければならないグローバルな時代に突入していることの表れだろう。

 象徴的なことを一つ挙げると、第6回ASEAN+3(東南アジア諸国連合+日中韓)文化大臣会合が今年4月にあった。日本の文部科学大臣として出席したのは私が初めてだったが、ASEAN諸国は日本が思っている以上に日本に対する期待感と親日感が高い。

 ASEAN全体の人口が約6億人であり、日本とウィン・ウィンの関係になれる。それは文化だけでなく、教育やスポーツ、科学技術においても日本とASEAN諸国が連携することによって、加速度的な発展を遂げたことがいくつかあった。

 日本との繋(つな)がりを持ちたいという要望が多くの国から来ている。イランやトルコなど東ヨーロッパや中東にも、時間が許せば行きたい。それと来月、横浜で日中韓の文化大臣会合が開かれる。中韓と文化面での交流を着実に広げていきたい。

「日本遺産」創設し観光客倍増を

 ――文科省発行の道徳教育用教材「私たちの道徳」の活用状況や配布状況を文科省で調査したそうだが、その結果はどうだったか。

 「私たちの道徳」を道徳の時間で使用したのが小学校で99・5%、中学校で98・4%だった。(「私たちの道徳」を)学校に置いたままとせず、家庭に持ち帰るようすべての学級で指導しているという回答は、小学校で80・9%で、中学校が72・7%と高いが、(一人一人に配布されているかの)実態と少し違うと思う。

 教材の活用については、授業で一回でも使ったら使用したという回答になる。実際にPTA連合会の何人かにお聞きしたら、「確かに使ったけど、1学期に1回しか使っていない」という事例がある。もう少し活用してほしい。

 ――中教審の総会で、道徳の教科化を求める答申案が示された。道徳の教科化は早くて平成30年度からとされるが。

 導入は予定通りだ。他の教科書と同じように、民間の教科書会社に学習指導要領に則ってより良いものを作ってもらいたい。それを実際に使うためには3年間はかかる。それまでの間、「私たちの道徳」のような教材をしっかり使ってもらいたい。

 ――平成24年度から中学校の保健体育の授業で武道が必修化された。当初の目的に照らして、どのような成果が得られたか。また、何か改善すべき点が見つかったか。

 平成24年度の各中学校1、2年生における武道の年間実施平均時間数は9・4時間だった。具体的には、柔道の実施率が高くて64・1%、次に剣道が37・6%だった。他には相撲、薙刀、弓道、空手道、合気道などがあるが、柔道と剣道が多く実施されている。

 実際に教えている先生は体育の先生であるが、外部指導者とともに教えているのは十数%くらいだ。武道が導入され、体育の先生が改めて研修をやるようになった。研修を受けた先生は素人ではないが、もっと柔道や剣道の専門家がいる地域であれば、そういう方々にも指導してもらうことは、一層の教育効果を生むことが考えられる。

 ――今年の3月に2020年を目途とした「文化芸術立国中期プラン」を発表したが、その進捗(しんちょく)状況は。

 それは加速度を付けて実現していきたいものがいくつもある。一つは2020年のオリンピック・パラリンピックが決定した中で、スポーツだけでなく文化の受け皿もつくりたいと思っている。

 まずスポーツについては、ただテクニックを競うスポーツを「道」にまで高める。その一つの分野を通じて人の生きる道にまで昇華していくようなメッセージを2020年のオリンピック・パラリンピックを機に世界に発信していきたい。まさにオリンピック憲章そのものなのだが、すべてのスポーツに精神性の付加価値を高めていくような「道」を広げていくことに貢献していきたい。

 それから、全国が受け皿になるという意味では文化だ。2020年に世界から2000万人が来日し、北海道、沖縄、九州などに行くとしたら単なる物見遊山観光ではなく、どこにどんな文化があるかがポイントになる。伝統文化行事も含めて地域の文化の掘り起こしになっていくようなことをやりたいと思っている。

 もう一つは今国会で「地方創生」が始まったのでそれと重なると思う。それ故、中期プランを加速させ、もっとクリエイティブでプラス要素を入れたものをさらに膨らませているところだ。

 ――ユネスコの世界遺産のような日本遺産をつくっていきたいとの考えがあるようだが。

 これから日本遺産を認定していきたい。これは文化庁が指定していくもので、世界遺産とは少しコンセプトが違う。国宝とか重要文化財など文化財があるからそれを日本遺産にするということではない。国宝がある地域と文化財がある地域がネットワークを組む。例えばいま、城下町サミットというのがある。お城が単に美しいというのではない。お城には歴史的経緯の中で悲喜こもごものドラマ、物語がある。例えば一人が何カ所ものお城をつくったという話がある。いくつかのお城を組み合わせてストーリー性をもってお城のルーツと歴史的背景をもっと知ろうということで国内外の観光客が倍増していくようなソフトのコンセプトをどうするかが日本遺産だ。

 ――日本遺産第一号はいつ頃認定されるのか。

 それはまだ分からない。この話を提案する中で、どの程度自治体が乗ってくるかは今後の課題だ。もともと持っている魅力をそれぞれの自治体が意外と気付いていない。彼らがまずどう気が付くかということだろう。

 ――少子化の問題が深刻だ。対策をどう考えるか。

 一つはワークライフバランス。それから女性が働きやすい場づくり。また、3世帯住宅やおじいちゃん、おばあちゃん世代が孫の世代と一緒に暮らしていくような環境づくりなどトータルな施策が必要だ。

 私の所管でいえば、教育費がある。教育費が高いために子供が2人欲しいのに1人になる夫婦が多い。理想的な夫婦の子供の数は2・42人だが、実際生まれてくる子供の数は1・96人。これはあまりに教育費が高いからその分、子供が産めない。小学校、中学校は公立、幼稚園、高校、大学は私立の学校に行くとすると教育費は1人1300万円かかる。そうすると子供2人を東京の大学に行かせるということは下宿代とかを入れずに2600万円もかかるので、普通の家庭ではほとんど不可能に近い。

 だから私は能力と志のある子供すべてに対してチャンスや可能性を提供するという意味で、できるだけ学費の無償化を図るような施策をすることによって安心して子供を2人、3人、4人産めるような社会環境をつくっていきたい。

 ――配偶者控除の廃止についてだが、女性が活躍する社会をつくって仕事を増やすということがあるが、それだとかえって専業主婦が大変になり家庭力が弱くなるとの懸念もあるが。

 配偶者控除が廃止されるということはない。どれくらいまで軽減するかということでゼロになることはあり得ない話だ。いろんな意見はある。ただ自民党の議論の中で配偶者控除を廃止するということはない。