道徳めぐる今年一年の動き

平成30年から正式教科に/中教審答申で歴史的な転換

 今年も残すところあと3日。今年は、戦後論争が続いてきた道徳教育で歴史的な動きがあった。教材「私たちの道徳」が配布される一方、中央教育審議会(文科相の諮問機関)が検定教科書を導入した「特別な教科」と位置づけるよう答申したことで、教科化されることが決まった。道徳教育をめぐる今年一年の動きを振り返る。(森田清策)

「私たちの道徳」配布も家庭や地域で活用不十分

道徳めぐる今年一年の動き

文部科学省が発行している「わたしたちの道徳」

 「教育再生」に力を入れる安倍晋三首相は2月の衆院予算委員会で、いじめの未然防止のためにも、道徳を特別の教科として位置付けたいとして道徳の教科化に意欲を示した。

 道徳の教科化は、終戦直後からたびたび論議され、戦後教育界の大きな課題となってきた。しかし、日教組をはじめとした反対派が「戦前の修身の復活」などと猛反発。結局、昭和33年に小中学校で「道徳の時間」を週1時間設け、おざなりにされてきた。

 それさえも、運動会をはじめとした行事の練習や教科の補習に振り替えられているのが実情。中には、この時間に「平和教育」と称し、偏向した価値観の押し付け教育を行う左派教員組合教師もいる。

 文科省の問題行動調査(10月発表)で、昨年に全国の小中高校などが把握したいじめは約18万5800件だったことが分かった。このうち小学校は約11万8000件で、2年連続で10万件を超え過去最多。暴力行為も平成9年の調査開始以降、初めて1万件を超えた。これらの数字は道徳教育の形骸化による児童・生徒の規律規範の低下と深く関わっていると考えられる。

 教育現場で、いじめをはじめとした暴力行為が深刻化していることもあって、下村博文文部科学相は2月、中教審に、道徳の教科化に関連し教育内容や評価の在り方などを検討するよう諮問した。これを受け、中教審が10月、小中学校で道徳を数値評価のともなわない「特別な教科」に格上げするよう答申したことで、検定教科書を使った道徳教育が平成30年度から始まる見通しとなった。

 ただ、日教組は「検定教科書は、規定された価値観や規範意識の押し付けにつながることが危惧される」と反対。また共産党系の全教も「特定の価値観を教え込むことになるのは明らか」として反発を強めている。

 一方、現行制度の中でも、道徳教育を改善する努力が行われた。今年はじめ、文科省は民主党政権下での事業仕分けで配布が取りやめになった道徳の副教材「心のノート」を全面改定。「私たちの道徳」(小学1・2年、3・4年用は「わたしたちの道徳」)と改称した上で、全国の小中学校の児童・生徒に配布した。約1000万部作成するという大々的な取り組みだ。

 内容は、マハトマ・ガンジーやマザー・テレサなどの偉人だけでなく、松井秀喜さんや澤穂希さんら世界で活躍するスポーツ選手、ノーベル賞受賞者の山中伸弥京都大教授らも取り上げ、読み物を多くしたのが特徴。

 また、いじめ未然防止につながる題材を大幅に増やすとともに、インターネットや携帯電話を利用する際の情報モラル、さらには日本の伝統文化に関する内容も充実させたことで、分量は従来の約1・5倍になった。

 4月からの使用を前に、2月中旬会見した下村文科相は「児童・生徒が道徳的価値や規範意識について自ら考え、実際に行動できるような内容にした。授業はもちろん、家庭や地域でも活用していただきたい」と述べた。

 道徳教育は学校だけで行っても効果は薄い。学校、家庭、地域が一体となって取り組むことが不可欠。このため、文科省は「私たちの道徳」を家庭や地域で活用できるよう、児童・生徒に家に持ち帰らせることを3度にわたって通知した。

 だが、世界日報が行った調査によると、首都圏で9割近く、全国では8割超が持ち帰らせていないことが分かった。一方、文科省の調査(7~8月に実施)では、小学校で8割、中学校7割超が「家への持ち帰りを指導している」と回答している。

 調査時期にずれがあるとはいえ、二つの調査の差はあまりに大きい。本紙が把握した声には、「(教師から)『学校の本だから学校に置いておかないとダメ』と言われた」(京都府)など、文科省の通知が無視されていることをうかがわせる内容が多数あった。

 これらを分析すると、現場教師の間に、道徳教育に対し否定的な空気が根強く残っているのは間違いなく、文科省に現場の実態を正しく伝えていない学校が少なくないことが浮き彫りになった。優れた教科書が必要であるとともに、道徳教育の教科化までに指導する教師の質をいかに向上させるかが大きな課題となっている。