文科省配布の道徳教材、9割家に持ち帰らせず
授業後の回収や未配布も
首都圏の小中学校40校を本紙が調査
今年度から新しく使われている文部科学省発行の小中学生向け道徳教材「私たちの道徳」が、児童・生徒一人一人に配られず、家に持ち帰らせていない学校が多くあることが世界日報の調査で分かった。文科省は先月15日に、同教材を家族や地域で一緒に考えるために持ち帰らせるよう、各教育委員会を通じて異例の再通知を出したが、その後も持ち帰らせていない実態が明らかになった。
教委は「非常に問題」、年間計画に沿った授業を
世界日報が首都圏の小中学校40校を学校関係者、PTA、父母、児童・生徒などを対象に調べたところ、文科省の再通知後も、9割近い35校で同教材を持ち帰らせていなかった。ほとんどの学校で、授業が終わるたびに教員が回収したり、教室の本棚に置いてある状態だった。同教材を授業で使っていない学校も半数近い19校に上った。文科省の再通知がまだ届いていない学校もあった。
また、東京都文京区のある小学校では、「私たちの道徳」が一人一人に配られ、授業で使っているクラスがある一方、違うクラスでは配布されず授業でも使われていないなど、同じ学校の同学年でも扱いが分かれているケースがあった。
現場の教員が自らの判断で不使用を決めている可能性もあり、クラスによって教育内容が変わる「教育格差」を生むことになりかねず、論議を呼びそうだ。
同区教委は、決められた年間指導計画に従わないことや、教材の不使用について「教師個人が判断することはあってはならない」と問題視している。
同教材の使用や配布がされていない学校が確認された地域の一つである豊島区教委は「持ち帰らせていない学校があったら非常に問題で、早急に改善したい」と厳しい見解を示した。他にも「年間指導計画で教材の活用を位置付けさせており、実行に移されていないとしたら指導対象だ」(三鷹市教委)とするなど、各教委は年間指導計画に沿った授業を行うよう求めている。
「私たちの道徳」は、文科省が今年度からの道徳教材として作成。小学校用と中学校用の計4種類があり、元プロ野球選手の松井秀喜さんやノーベル賞受賞者の山中伸弥京都大教授など、人物の生き方に関する読み物や、名言・格言などを多く掲載している。いじめ未然防止に関する題材や、日本の伝統文化についての内容も充実させた。
児童・生徒が家に持ち帰って、題材について家族と一緒に話し合えるよう、親が書き込む欄があるなどの工夫も凝らされている。
文科省はこれまでに、全国の公立小中学校に同教材を約1000万冊直送。制作や印刷、発送に約10億円の税金を投入しており、同省は世界日報の取材に「一公務員である教員が、教育委員会や校長の判断に従わないということは適切ではない」としている。
「教育の機会均等」にならない
「日本教育再生機構」理事長で麗澤大学教授の八木秀次氏の話 道徳教育については、現場で否定的もしくは消極的な人が多く、(配布・使用通知に)抵抗しているのではないか。教育委員会や各学校、もしくは校長が学校全体を掌握しながら、どの先生が担任になっても同じような教育がなされなければ、憲法が保障している「教育の機会均等」にならない。