沖縄・竹富町の教科書使用問題、地区離脱で収拾もしこり残る

 沖縄県の石垣市、竹富町、与那国町からなる八重山採択地区協議会の答申と異なる中学公民の教科書を竹富町が使用している問題で、県教育委員会は5月21日、地区から竹富町教委を分離することを決めた。6月6日にも離脱が正式に承認される見通しだ。混乱が続いた教科書問題はひとまず収束に向かうが、竹富町が行政・文化・経済の各分野で一体感の強い八重山地区から離脱することによる影響が懸念される。(那覇支局・豊田 剛)

単独採択の負担増に懸念も

石垣市、与那国町は遺憾示す

地区離脱で収拾もしこり残る

県教育委員会の定例会に出席した宮城奈々教育委員長(左から2人目)、諸見里明教育長(同3人目)ら=5月21日、沖縄県教育委員会会議室(那覇市)で

 5月21日の沖縄県教育委員会定例会では、多くのマスコミと傍聴者が駆けつけた。満員の会議室に、宮城奈々教育委員長、諸見里明教育長を含めた6人の教育委員は、これまでの重苦しい雰囲気とは違って、清々した表情で入室した。

 開会と同時に配られた資料は、竹富町が単独採択地区として分離することを説明していた。会議の冒頭、諸見里教育長が3市町の各教委を訪問し、竹富町の分離への理解を求めたことを説明。与那国町の崎原用能教育長は「3市町が本来ならば一体だが、竹富町があえて分離独立したければ仕方ない」と述べたという。

 一方、石垣市の玉津博克教育長は「県教委が決めることで石垣市教委として何も言う立場にはない」と述べたものの、3市町は一体との立場を強調。分離に懸念を表明した。

 3市町で温度差があることについて諸見里氏は「本来ならば3市町の教委が協議して解決すべきだったが、長としてじくじたる思いだ」と率直な感想を述べた。

 これまで、県教委は何度も文科省に是正を求められたが、「竹富町の判断を尊重すべき」との姿勢を崩さず、国と竹富町の板挟みにあい、判断を先送りしていた。解決の機運が高まったのは、4月に教科書無償措置法が改定され、採択地区の範囲が市郡単位から市町村単位となったからだ。この時、県教委は竹富町を単独採択地区にする方針を固めた。

 沖縄県ではこれまで地理的、歴史的特殊性を理由に、採択地区が必ずしも市郡単位ではなかった。県教委の説明によると、「沖縄では戦後、六つの教育事務所が創設されたが、その構成市町村は市郡制度の地区割りと若干異なっている。歴史的要因による行政区域の管轄、離島の地理的ハンディなどの課題から、以前から採択地区の見直し要望があった」

 ただ、法改正の趣旨は市町村合併で従来の採択地区の枠組みが崩れたという前提であり、竹富町の場合は当てはまらない。

 これについて県教委は、「竹富町は地区変更があった他の6町村とは違う地域の教育事情がある。県教委としては、児童・生徒の平穏な学習環境が第一であると考える」と説明、竹富町の地区変更は特例措置であることを認めた。

 竹富町の地区変更について教育委員長から意見を求められると、富川盛武委員(沖縄国際大学前学長)は「教科書問題が収束することになる」と歓迎。一方、石嶺傳一郎委員(沖縄電力会長)は「地域のエゴイズムが介在するのは好ましくない」と指摘した上で、「単なるエゴイズムではないことを証明するためにも、安定した教育環境と質を継続的に保証しようとする竹富町教委の要望は納得できる」と一定の理解を示した。

 県教委の説明には、台湾と接する与那国町、尖閣諸島が中国との国境に接する海域にある石垣市と、竹富町は「取り巻く地理的条件が異なる」と政治環境も考慮しているかのような表現もあった。

 八重山地区採択協議会は2011年、中学公民教科書に育鵬社版を答申したが、竹富町は東京書籍版を独自に採択した。「基地問題の記述が少ない」というのが竹富町教委の主な主張で、政治的判断の側面が強い。文科省により無償措置の対象外とされたため、12年度から町出身の有志が寄贈した東京書籍版を生徒に配布、使用している。

 竹富町には中学校が西表島に4校、竹富島・黒島・小浜島・波照間島・鳩間島に1校ずつあり、生徒数は20人程度しかいない。教育委員会は離島ターミナルがある石垣島にあり、石垣市と行政・文化的にも密接な関係にあることは否定できない。

 実際、竹富町教委はこれまで、教科書選定を石垣市教委に依存してきた。今後、教科書採択は竹富町が単独で比較研究、決定しなければならなくなり、数少ない教師の負担が増える懸念が生じている。竹富町教委の離脱を受け、石垣市教委は協力に応じない姿勢を示している。

 これについて、県教委は単独採択地区としての調査研究について、退職教職員や学識経験者などを活用。県教育庁八重山教育事務所に教科書採択支援のための職員を一定期間配属する方針を決めた。