ウイグル弾圧問題、対中国のリトマス試験紙だ
マクロン仏大統領が、旧仏植民地アルジェリアの独立戦争(1954~62年)時に、仏軍が組織的な拷問など人道に反する罪を犯し、国に責任があると認めたのは先月中旬。特に57年に独立運動家で25歳のアルジェ大教授、モーリス・オーダン氏を拘束、拷問の末死亡させたと発表し、高齢のオーダン夫人に謝罪した。
「自由、平等、博愛」を掲げるフランスでも、自国の行動の暗部を公式に認め、謝罪するのにいかに長年月を要したことか。まして強権国家においてをや。
中国の新疆ウイグル自治区で昨年来、ウイグル人イスラム教徒ら約100万もの人々を、強制収容所や再教育施設に収容し、拷問もし、脱イスラム化、中国人としての教化、共産党賛美教育を進める大強制作戦が展開されているようだ。毛沢東・文化大革命以来の大量強制収容ともいう。昨年の同自治区の公安対策費は、前年の倍、84億㌦。作戦は5年以上続く見込みとか。
英インデペンデント紙などが報じた外国人(カザフ人)元被収容者の話によれば、再教育施設では、イスラム教徒に豚肉を食べさせ、酒を飲ませて信仰を断念させる戦術まで実施している。
1970年代のカンボジアのポル・ポト政権の暗黒革命を思い出す。彼らは何でも虐殺したが、特にイスラム教徒の少数民族、チャム族を目の敵にし、集団の食事で豚肉を食べるよう強制した。
ふだん国民に粗末な食事しか与えないのに、弾圧のため豚肉まではり込む。陰湿だが、同政権の後見人が中国だったからやり方が似ていて不思議はない。
豚肉作戦の効果は限られている。ポル・ポトも一般国民虐殺率よりずっと高率で、チャム族を虐殺しなければならなかった。
中国は今、大量虐殺はできないし、イスラム信仰の自由が護(まも)られている形態を取り続けなければならない。でも、過激派ばかりか普通のイスラム教徒も退治し、虚弱信徒だけ残したいのだろう。
中華思想に拠(よ)る漢民族の少数民族差別、人種差別も根底にある。ちなみに、中国の巨額投資と企業、労働者が殺到しているアフリカでも、最近ケニアなどで、ケニア人を「猿」と呼んだり、非文明人のように扱う中国人への反感が、特に若者の間で広がっていると報じられている。
20世紀後半のチベット弾圧、文化大革命、天安門事件の実相も、中国は秘密にしたままだ。ウイグル弾圧も、中国が事実を公式に認め、謝罪すべきは謝罪するのは、22世紀になるかもしれない。
だが、今や非公式情報は世界に広がる。米国のペンス副大統領も議会委員会も「前例のない弾圧」を強烈に非難し、人権問題も米中対決の重要カードとなった。そんな「米中新冷戦」の中、中国は日中関係改善ムードを盛り上げ、安倍首相が訪中した。
日本側は言うべきことをいつも以上に言えたはず。政治や人権の問題できちんと物を言う、ウイグルの状況について日本も憂慮しているとしっかり伝える好機で、ある意味重要なリトマス試験紙だった。
安倍・習近平会談の当日、ウイグル、チベットなどの亡命活動家による国際連帯組織が日本で立ち上げられたのも、今後の日本の「物言い」を期待してのことだろう。
「競争から協調へ」。安倍訪中で特に経済協力推進が謳(うた)い上げられたが、安倍首相は中国側に、ウイグル弾圧などを念頭に「中国内の人権状況について、日本を含む国際社会が注視している」とも述べたという。
述べたのはよかった。だが、ウイグルに直接言及せず、中国にインパクトを与えられただろうか。リトマス試験紙の色はまだ判定できない。
(元嘉悦大学教授)






