人民元の国際化、世界が納得する改革進めよ
国際通貨基金(IMF)が、通貨危機などに備えた準備資産「特別引き出し権(SDR)」の構成通貨に中国の人民元を加えることを決めた。故毛沢東主席の肖像が印刷された人民元は、ドルやユーロ、円、英ポンドと並ぶ「国際通貨」のお墨付きを得た格好だ。
これで人民元は決済や外貨準備での利用が促され、中国企業にとっては為替変動のリスクを軽減できるメリットがある。
政権の過剰な市場介入
だが「国際通貨クラブ」の会員になった以上、それにふさわしい行動が求められる。中国は1997年のアジア通貨危機の荒波を経て、2001年に世界貿易機関(WTO)加盟を果たし、それをジャンプボードに「世界の工場」として貿易を飛躍的に発展させた経緯がある。
だが中国はWTO加盟の恩恵を享受する一方、その義務を果たすことには熱心ではなかったのが現実だった。コピー商品の氾濫などWTO協定にある知的所有権も無視されたし、最近では協定違反と認定されたレアアース輸出規制もあった。
国際通貨の名にふさわしく人民元が自由に取引できるよう、中国政府は金融制度改革を確実に推進していかなければならない。政権の過剰な市場介入も目立つ。自国だけの利益を求めるのではなく市場開放も着実に実行すべきだ。こうした中国の改革努力がないままでは世界が納得することはない。
人民元による新たな金融秩序構築を目指す中国にとって、基軸通貨ドルへの依存を低下させることは、経済覇権を確立する上で欠かせぬ国家戦略だ。それとともに、有事の際に米の経済制裁を回避する有効な手立てでもある。
中国は人民元のSDR入りを足がかりに、中東やアフリカから輸入する原油の代金決済をドル建てから元建てに切り替えさせ、メジャーがドル建てで支配している石油市場に風穴を開けると同時に、年末に北京で創設されるアジアインフラ投資銀行(AIIB)をも活用しながら人民元圏の拡大を図ることになろう。
人民元の国際的信用度の向上と反比例する形で、円の存在感が低下する懸念が生じる。国際通貨としての円の信認を広げるには、安定した経済運営や財政再建に向けた取り組みなど、円の魅力を高める経済の底上げは欠かせないが、何より肝要となるのは安全保障の確立だ。
通貨は安全保障と密接に絡んでいる。有事にただの紙くずになりかねない防衛能力の欠落した国の通貨など、誰も信用しないからだ。ドルがハードカレンシー(交換可能通貨)として圧倒的な世界の信認を得てきたのは、突き詰めれば産業力や民主主義体制を擁護する世界最大の防衛力を有してきたからに他ならない。
安全保障押さえた戦略を
その意味では、地域覇権を求め力による現状変更を試みている中国や台頭する過激派組織「イスラム国」などによって、世界がきな臭くなっている現在、経済だけに目を奪われることなく、安全保障をしっかり押さえたトータルな戦略が問われていることに注意すべきだ。
(12月6日付社説)