化血研不正、ごまかし防止を徹底せよ


 血液製剤やワクチンの国内有力メーカー「化学及血清療法研究所」(化血研、熊本市)が長年、国の承認を得たのとは異なる方法で血液製剤を製造し、組織ぐるみの隠蔽(いんぺい)工作を繰り返していたことが第三者委員会の調査で明らかになった。医薬品に寄せる国民の信頼を裏切る行為であり、再発防止の徹底を図らなければならない。

 常軌逸する隠蔽体質

 血液製剤はヒトの血液を原料に作られる医薬品で、外科手術のほか、血友病や感染症の治療などに広く使用されている。

 化血研は旧熊本医科大学の研究所が母体となった一般財団法人の薬品メーカーで、各種ワクチンや血液製剤などの研究や開発、製造、供給を手がけている。この種の医薬品関連の名門企業の一つだ。

 第三者委の報告書によると、化血研は1974年から生産性の向上などを理由に、国の承認と異なる製造方法を実施。89年ごろには承認外の抗凝固剤を入れるなどの行為が常態化していた。その上、98年ごろから実際の製造記録とは別に、承認内容に沿った虚偽の記録を作成し、国の検査をすり抜けていた。

 また、第三者委は前・現理事長を含む経営陣も認識していたと指摘。「『少々ごまかしても問題ない』という研究者としてのおごりが原因。常軌を逸した隠蔽体質が根付いていた」と厳しく批判した。

 報告を受け、化血研の宮本誠二理事長は辞任し、退職慰労金の全額返上を表明、他の理事についても辞任や辞職とする処分を決めた。こうした状況を打開するには、製品の安全が確保されるよう、常に公的意識をもった指導と管理を心掛けるべきだ。化血研は研究が使命という側面があるが、常に消費者や国民と向き合う立場にあることを忘れてはならない。

 不正が原因とみられる副作用報告は今のところないが、血液製剤を生涯にわたり使用する患者は少なくない。またワクチンへの信頼も失われれば、接種を控える人が増える恐れもある。化血研は猛省し、失った信頼の回復に努めなければならぬ。

 その一方で、監督官庁の厚生労働省が、メーカーの40年にわたる不正を見抜けなかったという失態は批判されて然るべきだ。ワクチンや薬事行政における官庁の事なかれ主義は、以前から指摘されていた。

 その背景に60年から70年代、医療界に左翼共産主義の嵐が吹き荒れたことがある。その間、ワクチン開発や認可に関し、国が先導して開発を進めると独立を守れないとする医療界の主張がまかり通り、行政はその力に事実上屈した事実がある。

 監督官庁の責任も大

 以後、その“後遺症”が付きまとい、行政側は、ワクチン開発などについて医療界に進言することさえ憚(はばか)られるという時期が続いた。そして医療界との間に検査・認容などの過程で問題が起きないよう、両者に馴(な)れ合い的な、適当に妥協する関係が生まれたと言われる。

 化血研の今回の不正もつい最近のことでなく、40年にわたっている。行政は化血研の不正に気付いていなかったのかどうか、大いに疑問だ。

(12月5日付社説)