辺野古訴訟、「公益」判断示し早期決着を
米軍普天間飛行場の辺野古移設に関して、国が沖縄県による埋め立て承認取り消し処分の撤回を求めた「代執行訴訟」の第1回口頭弁論が福岡高裁那覇支部で行われた。翁長雄志知事の承認取り消しが違法か適法かが最大の焦点だが、知事からは正当性を訴える言葉はなかった。司法には公益性を重視した判断を示し、早期に決着することを望みたい。
知事の陳述に事実誤認
翁長知事の戦術は承認取り消しの適法性にとどめず、「沖縄県のみに負担を強いる日米安保体制が正常か国民に問う」といった訴えを法廷外にまで拡大し、裁判を長期化させて世論の批判を盛り上げることにあろう。
だが、代執行訴訟のポイントはあくまでも、翁長知事が前知事の仲井真弘多氏による承認に「瑕疵」があるとして取り消した行為に対する是非にあるはずだ。政府側が「訴訟は政治的な意見を議論する場ではない」と主張したのは当然である。
しかも、翁長氏が意見陳述のほぼ半分を費やした歴史認識に事実誤認がある。知事は「沖縄が米軍に自ら土地を提供したことは一度もない」と語った。だが現在、辺野古にある米軍基地(キャンプ・シュワブ)は、村長が1956年、再三にわたって誘致を要請。金武村のキャンプ・ハンセン基地も、住民の陳情運動の結果できたもので、自主的な契約に基づいて地料を受け、返還を望んでいない。
一方、国側は「この場は澄みきった法律論を述べ合う場だ」と冷静だ。「承認取り消しにより、普天間飛行場の危険性除去ができなくなるほか、日米間の信頼関係に亀裂を生じさせる」との主張はもっともである。
もともと、辺野古移設は普天間飛行場の危険性除去が原点にある。普天間飛行場が返還されれば跡地利用が可能になるだけでなく、移設先が沿岸部に位置するため騒音被害を受ける住民もほとんどいなくなり、基地面積も半分以下となる。現状を放置すれば普天間飛行場のある宜野湾市民の「公益」が害され続けることは間違いない。
また、辺野古移設は日米間の約束事でもある。訴状は移設に失敗すれば「米国との外交・防衛上の計測不能なほどの不利益をもたらす」としているが、その通りだ。県側は米軍基地建設の根拠法がないから憲法違反だとも語ったが、「施設及び区域の使用」は日米安保条約によって保証されており、米軍基地の存在がわが国の安全保障を支えているのである。
アジア太平洋地域の安全保障環境は厳しく、中国は尖閣諸島(沖縄県石垣市)領海内への侵犯を繰り返し、那覇空港から夜間に緊急発進する自衛隊機の数も激増している。にもかかわらず、知事は訴訟の答弁書で「工事続行の緊急性は存しない」との認識を示したが、公益性を全く無視したものだ。
移設作業は着実に進めよ
政府側が「わが国の国防・外交は国として決定すべき事柄であり、知事の権限は及ばない」と述べたように、司法には「公益」を踏まえて早期に結審することを求めたい。その間も埋め立て工事は続行し、移設作業を着実に進展させるべきである。
(12月4日付社説)