日本の不動産「爆買い」の中国富裕層を扱い社会の明暗示したクロ現

◆永住権が目的と指摘

 今年の流行語大賞になった「爆買い」。受賞したのは免税店社長だが、中国人観光客が大挙してデパートや量販店、飲食街や観光スポットで買い物をする風景はケタ違いの豪快さだった。

 世相を手っ取り早く映すテレビは、中国から観光客が大勢来日する春節、国慶節などに各報道番組で「爆買い」の様子を追跡し、トレンドを分析したり、“遭遇”した日本人らの「歓迎」と「苦情」を取り上げた。政府は訪日外国人(インバウンド)の数を増やそうと政策を打っており、ビザ条件の緩和により最も効果が表れたのが中国である。

 「爆買い」も豪華なものから日用雑貨まで様々となり、その頂点ともいえる不動産の爆買いを、2日放送のNHK「クローズアップ現代」(クロ現)が扱っていた。

 東京の不動産を次々に購入する中国人富裕層を特集したもので、タイトルも「東京を買う中国マネー/不動産爆買いと“投資移民”」だ。番組冒頭で都心の高層ビル「シーフォートスクエアシティグループセンター120億円(推定)」と、結婚式場「目黒雅叙園1430億円(推定)」などを流し、金額が格段に違う爆買いスケールを印象づけた。

 実際に人気があるのは1億円以下のマンションだという。不動産を物色する中国人については、これまでも観光客の「爆買い」の際に各番組が取り上げてきたが、クロ現は「投資移民」というキーワードを当てて中国で起きている実態に迫っていた。つまり永住権獲得が目的だというのだ。日本の場合は、不動産を購入して日本で事業を行うなどで在留資格を取り、経営・管理ビザを10年更新し続ければ永住権申請ができるという。

◆投資と言うより投機

 国谷裕子キャスターは、昨年の国内不動産取得額の2割(過去最高の9817億円)を外資系法人が占める一方、日本の人口は減少し空き家が増えている不動産市場と対照させていた。果たして富裕層による日本への不動産投資と移住は歓迎できる展開なのだろうか。

 円安、5年後の東京五輪、他のアジアの主要都市より高い利回り(3・6%)などから、ほとんどは来日して物件を即断で決めるといい、さらには、中国・上海にいながらにしてパソコンとスマホを通じたネット売買で即決する早さだ。もはや「インバウンド」とも言えぬ投機熱を映していた。

 また、「投資移民」の方は、中国の戸籍が行政サービスを受けられる「都市戸籍」と「農村戸籍」に分かれている二元管理の社会制度を説明し、上海などで「農村戸籍」の人が成功して資産家になっても「都市戸籍」に変えるのは難しく、それよりも日本など先進国に移住して行政サービスを受けた方が容易である事情を解説していた。

 スタジオで国谷キャスターと対談した日本不動産研究所の専門家・愼明宏氏は、「多様な参加者が市場に参加して、不動産価格の安定を重視すべき」と述べた。業界寄りの前向きな評価をしたといえる。

 が、これが我が国の不動産市場の活況といえるかは様子を見なければならない。番組で紹介されたのは利ざやを稼ぐ投機であり、あるいは永住権獲得という自分への投資であって、地域社会への貢献という視点は中国人富裕層にはない。むしろ、中国で受けられない日本の社会保障や子供への教育制度に期待している。

◆チャイナリスク見よ

 となると、番組は婉曲に日本社会の良さと中国社会の住みにくさの明暗を浮かび上がらせた。商品も社会も良いものを作れば人が求めに来る。が、お金はあっても中国では手に入らないものが多くあり、その最たるは社会そのもの。原因は中国共産党の一党独裁体制だ。中国政府のやることは独断的で、番組でも、突然8月に人民元が引き下げられたことを日本の不動産買いの原因にあげていたが、この時の3日連続の切り下げは中国経済後退を世界に印象づけた。6月には上海で株価暴落が起きており、バブル崩壊が騒がれた。

 となれば、東京や大阪などの不動産買いは殺気立った資産避難といえるが、同日のクロ現ではチャイナリスクには余り突っ込まなかった。先に日本は株と不動産のバブル経済崩壊を体験しており、行き過ぎれば対応策も必要だろう。ある不動産仲介業者が「投資移民」について「ものすごい数で申請したり、相談に押し寄せたり実行に移すと思う」と感触を語っていたが、富裕層が“投資難民”となる予兆であろうか。

(窪田伸雄)