沖縄2紙の「ヘイトスピーチ」 米軍を「無法者」呼ばわり
《 沖 縄 時 評 》
地元住民の犯罪・飲酒は軽視
◆全て「差別」のせいに
「沖縄差別」。昨年、沖縄2紙(沖縄タイムス、琉球新報)にこの文字が何度、載ったことだろうか。米軍基地が沖縄に集中しているのは「沖縄差別」。過激な反基地闘争を繰り広げ、揚げ句の果てに傷害などで逮捕されても「沖縄差別」。国の沖縄予算が減らされると、それも「沖縄差別」。そんな具合に意に反することがあれば、間髪を入れず紙面に「沖縄差別」の文字を躍らせた。
では、自らは他者に対してどうだろうか。普通の感覚で言えば、差別を受けて嫌な思いをした人は、同じ思いを人にさせないために差別しないよう努める。
だが、沖縄紙はまったく違っている。意に反する人々に対して公然と差別して憚(はばか)らない。その言論たるや、まさに「ヘイトスピーチ」(差別的な意図をもって貶(おとし)める言動)である。昨年12月、米軍属による女性殺人事件に対する那覇地裁判決があった。これを報じる沖縄紙がそうだった。
2016年4月に沖縄県うるま市の当時20歳のOLを殺害、遺棄した米軍属のシンザト・ケネス・フランクリン被告(33)に対して那覇地裁は昨年12月1日、「刑事責任は誠に重大で酌量の余地がない」として無期懲役の判決を下した。被告は強姦(ごうかん)致死、殺人、死体遺棄の罪に問われ、殺人について否定し黙秘したが、判決は殺意を認めた。
この事件は純然たる凶悪事件だ。米国人であろうと、日本人であろうと人種、職業に関わりなく、法に基づき処断されるべきは言うまでもない。
判決を受けて父親は「娘の無念を思うと死刑しか考えられません」とし「残された遺族の事をもっと考えてほしい、人殺しには今まで以上に厳しい量刑を設けてほしいのです」と極刑を求めるコメントを出した。
凶悪犯によって家族を失った遺族の怒りと悲しみが伝わってくる。そこには米軍属や米軍基地への批判はない。同じ12月に元少年死刑囚の死刑が執行された際、遺族が「(加害者が)少年であろうと誰であろうと、遺族の悲しみは消えない」と述べていたのと通じる。
ところが、琉球新報社説は「実効性ある再発防止策は日米地位協定の抜本改定と、被害女性の父親が求める『一日も早い基地の撤去』である」とし、「戦後72年たってなお基地被害にさいなまれる。繰り返される事件を防げない日米両政府に重い責任がある」と、矛先を日米両政府に向ける(12月2日付)。
◆「真実の追求」を放棄
沖縄タイムス社説も「今回の事件はケネス被告の個人的な問題と軍隊として米軍が持つ構造的暴力の二つの側面がある。事件が突きつけたのは沖縄戦から72年たっても民間地域でウオーキングさえ安心してできない現実である」とし、さらにこう言った(同日付)。
「基地あるが故の事件という本質を不問にすることはできない。根本的問題は地上兵力が沖縄に集中し過ぎることである。国外、県外に分散配置することなしに問題は解決しない」
この社説も反米軍基地へと論議を飛躍させている。だが、この事件のどこに「米軍が持つ構造的暴力」があると言うのだろうか。
被告はニューヨーク州出身の元海兵隊の軍属。米軍嘉手納基地内のIT会社に勤務し、県人女性と結婚して女性の実家に4月に引っ越したばかりで、生後数カ月の子供もいた。
ここから元海兵隊員で軍属だったから犯行に及んだ形跡は見当たらない。裁判の過程でもそんな話は伝わってこない。判決が「動機は身勝手」と断じるように、あくまでも個人的犯行だ。
事件そのものは日米地位協定と何ら関係ない。それを「基地あるが故の事件という本質」とし、「根本的問題は地上兵力が沖縄に集中し過ぎること」に帰結させるのは、どうみても飛躍であり、虚偽だ。
「基地被害」「米軍が持つ構造的暴力」とするのは、事件に関わりのない4万余人の米軍・軍属・家族関係者への侮辱、ヘイトスピーチだ。ヘイトスピーチ規制法は「本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」を禁止しているが、沖縄紙は平然とそれをやっている。
確かにケネス被告の犯行は「民間地域でウオーキングさえ安心してできない現実」を見せ付けたが、それは何も米軍関係者の犯罪に限らない。むしろ沖縄では犯罪は圧倒的に地元民のものが多く、米軍関係者は少数だ。
このことは沖縄2紙の最近の報道からも知れる。昨年10月末現在、同年の県内刑法犯の認知件数は6736件。窃盗犯が4564件で全体の約7割を占め、凶悪犯は62件に上る(沖縄タイムス11月28日付)。
これに対して米軍構成員らの刑法犯は11月末で36件34人。米軍関係者の家族の少年による万引き(窃盗犯)が多く、凶悪犯は米軍人による強制性交容疑の1件だった(同12月20日付)。
過去のデータでも沖縄住民の犯罪の方が圧倒的に多い。沖縄2紙が真に凶悪事件の再発防止を願うなら、人種に関わりなく犯罪のメカニズム(動機と経路)を分析し、そこから防止策を考えるべきだ。それをしないのは「真実の追求」の放棄に等しい。
◆飲酒事故を政治利用
もう一つの例を挙げてみよう。昨年11月19日未明、那覇市の泊交差点で発生した海兵隊員(21)による飲酒死亡事故だ。海兵隊員は飲酒して米軍の2トントラックを運転し軽トラックに衝突、運転していた61歳の男性を死亡させた。
海兵隊員から基準値の約3倍のアルコールが検出された。基地内で飲酒し、公務外なのに米軍車両を使っていた。弁明できない死亡事故であることは間違いない。在沖米軍トップのニコルソン四軍調整官が翁長知事に謝罪したのは当然で、米軍の綱紀粛正の在り方が問われよう。
だが、沖縄2紙はここでも過激な反米論調へと話を転化していく。琉球新報社説は米軍が言う「良き隣人」を皮肉って「これでは悪しき無法者だ」(同20日付)と米軍を「無法者」と呼び、沖縄タイムス社説は「度を超す『基地の犠牲』」(同21日付)と基地の犠牲へと話を広げる。
飲酒死亡事故を起こした海兵隊員が「悪しき無法者」のレッテルを貼られても仕方ないが、米軍全体を無法者呼ばわりしたり、「基地の犠牲」としたりするのは論理の飛躍だ。飲酒事故を反米攻撃材料に政治利用している。
だが、飲酒事故もまた米軍に限ったものではない。とりわけ沖縄にとって飲酒事故は耳の痛い話だ。2016年に県下で発生した交通人身事故は5491件で、うち飲酒絡みの事故は109件(構成率1・99%)。1990年以来、27年連続で全国ワースト1なのだ。
酒気帯び運転の検挙件数は1856件で、全国最多だった2015年の1632件を224件上回り、2年連続の全国最多だ。人口1000人当たりの検挙件数は約1・3人で全国平均の約6・4倍だ(沖縄タイムス17年1月26日付)。おまけにアルコール性疾患による死亡率は全国の約2倍に上っている。
前掲の刑法犯認知件数によれば、暴行や傷害などの粗暴犯(767件)の半数近くは泥酔など酒絡みで、16年に県警が検挙した殺人など凶悪犯の約4割、暴行やDVなど粗暴犯の約5割が飲酒していた。県警幹部は「適正飲酒の推進が事件事故全体の抑止対策につながる。取り組みは急務だ」と話している。
とすれば、沖縄では米軍関係者を含めて全県挙げて飲酒対策に取り組むべきだろう。ところが沖縄2紙は矛先を米軍だけに向け、県民の「無法者」にはお構いなしなのだ。
交通事故と言えば、昨年12月1日、沖縄市の沖縄自動車道で車両6台が関係する多重事故が発生、横転した車の日本人ドライバーの救助に向かおうとした米海兵隊の曹長が後方からきた車にはねられ重傷を負った。これを沖縄2紙は多重事故として伝えるだけで、曹長の利他精神については黙殺した。これも形を変えたヘイトスピーチだ。
このように沖縄2紙は「沖縄差別」と言いつつ、自らは「米国人差別」を繰り広げているのだ。やはり沖縄2紙の偏向は深刻だと言わざるを得ない。
増 記代司






