「祖国をより強大に」が最重要
プーチン氏が国民と対話
孫への忠告は「ウソをつくな」
ロシアのプーチン大統領は6月7日、毎年恒例の「国民との対話」を行った。ロシアの主要なテレビとラジオを通じての「国民との対話」のテーマはほとんど内政問題が中心。大統領が国民の不満に耳を傾け、すぐに対処するという「ロシア式民主主義」の象徴として、2001年12月24日から、04年と12年を除いて、続いており、今年は16回目(大統領として12回、首相として4回)。これまでで最長の対話時間は13年の4時間47分だった。今年5月に通算4期目の任期に入ってから初めての4時間20分の対話時間に、大統領は79件の質問に回答した。
タス通信によれば、今年、約260万件の質問が寄せられたという(これまでの最高は15年の320万件)。大統領は、経済、福祉、医療、環境、社会政策等内政の諸問題、国防、安全保障、宇宙開発、さらに対米・対英関係、ウクライナ問題、対中関係、シリア情勢、バルト諸国でのロシア人の地位など国際問題、それに、間近に迫ったサッカーのロシア主催ワールドカップ(W杯)など幅広い分野についての質問に、当意即妙かつ明快に回答した。
日露関係についての質疑応答はなかった。事前に質問はあったが、回答すべき対象から外された可能性もある。日本の国名が出てくるのは、単に地理上の呼称の場合と、ゴミ処理がうまくいっている例として日本を挙げたところ。それに、どの国のトップに“君”と“あなた”を使い分けるかという質問が出たときに、大統領は実名を挙げずに、「日本の首相、ドイツ首相、フランス大統領とは“君”で呼び合う」と明かした。
主要ロシアのメディアが指摘したプーチン大統領の興味ある答えをアトランダムに紹介する。
「あなたが父親から聞き、孫に伝えたい忠告は何か?」と尋ねられたプーチン大統領は即答した。「決してウソをつかないこと」。
「(政治や日常生活で)何をしたらいいか分からないときに、あなたはどうするか?」との質問に、「ご承知のように、“確信がなければ、追い越すな”という[運転手の法則](訳注・「急(せ)いては事を仕損じる/急がば回れ」という日本の諺(ことわざ)に匹敵か)があり、それに従う。私のような行動をする者にとって、“過ちは非常に高くつく”のだ」。
大統領職について、「国の最高の地位に就いていると、個人的な生活を犠牲にすることが要求される。それは避けられないことだ。しかし、この職業から大きな見返りを得ることができる。それは、やっている仕事は極めて重要であり、活気があり、何百万の人びとの福祉を向上させるためのユニークな仕事であるという認識、そして、各人にとって最も重要なのは、祖国をより強大にするという認識によって報われるのだ」。
後継者について、「私は常にそのこと(後継者問題)を考えている。ロシア国民、投票者がそれを決めるので、言葉の古典的な意味での(訳注・現職大統領が決める)後継者はいない。しかしながら、私は新しい世代の指導者が現れる条件が作られていると確信しており、彼らがロシアへの責任を果たすことができるだろう」。
神への信心について、「神への信心は全ての人の生得のものだ。人びとは人生の環境次第でそのことを知るのである。私の考えでは、あらゆる人はその魂に神への信心を持って生まれる。ただ、いろいろな人がそれぞれの人生の異なった場面で、異なった環境でそれを知るのだ」。プーチン大統領は、大祖国戦争(ソ連が1941年から1945年までナチス・ドイツと戦った戦争)を例に出して、「“頑固な無神論者”ですら、塹壕(ざんごう)をよじ登り、敵と戦うために前進したときに、神について考えたと確信する」と述べた。
プーチン氏自身が神と向き合ったのはいつだったかと聞かれた大統領は、「宗教は困難なときに人びとを救う。あなたの質問は極めて個人的な問題だ。そのことを公に話をするのは難しい」と答えた。
国民の生活水準の向上を目標に掲げる大統領は、ロシア経済に関して、「現在の状況を、白、黒、グレーのカテゴリーに分けて見るならば、われわれは安定した好ましい(white)時期に向かいつつある」と強調した。
「現在の歴史的に低いインフレ水準は、経済を成長させる強力な要因である。また、ロシア経済への直接投資は、昨年4・4%増え、加速している。これは極めてよい指標である」「経済のプラスのトレンドとしては、対外債務の少なさ、金準備高の増加を挙げることができる。ただし、経済発展計画を実現するには、当初の見込みだと、次の6年間で17兆ルーブルを使うはずだったが、さらに8兆ルーブル(1290億ドル)の追加予算を要するだろう」。
ウクライナについて、「ルガンスク、ドネツク両人民共和国の状況、ドンバスにおける全体の状況は、悲劇である。ウクライナ、ウクライナ国民、わが同胞にとって大きな悲劇である。ご存じの通り、私は常にウクライナを兄弟国家として扱ってきたし、ウクライナ人とロシア人は事実上、一つの民族である。われわれは共通の過去を持ち、今日の悲劇にもかかわらず、共通の未来を持つと確信している」とプーチン大統領。
(なかざわ・たかゆき)






