新型コロナ第3波迎えたロシア
ロシア研究家 乾 一宇
連日数百人の死者を記録
新たな政策を求められる政府
ロシアの新型コロナの感染状況(累計約550万人)を見ると、昨年8月26日に新規感染者が最低(4576人/日)となり、第1波が底を打った。その後、第2波が緩慢に始まり12月24日に最大に達した(2万9936人)後、下降し始め、今年5月6日、最小(7639人)となった。その後、徐々に増え始め、6月9日1万人台を突破、6月下旬、新規感染者は2万人台となり、上昇傾向を示し、第3波の兆しが見えている。
モスクワで感染急拡大
感染者数の増加もさることながら、毎日の死者数は第1波(最大216人/日)より多く、昨年12月24日635人/日を記録し、毎日数百人の死亡が継続、現在も600人台/日が死亡している。別指標で見ると、昨年の死亡者が5万7019人なのに、本年は6月中旬で既に7万人台に達している。このように、感染状況もさることながら、死者数の増加が一つの特徴である。
ただ、6月28日現在の人口100万人当たりの死亡者数を欧米などと比べると、ロシアの917人に対し、イタリア2112人、英国1877人、米国1861人、フランス1697人、ドイツ1087人となっており、欧米よりは少ない。
ここで首都モスクワの感染状況を見てみると、全ロシアの低い傾向に先駆け、5月初めから感染者および死亡者の増加が顕著に見られ始め、S・ソビャーニン市長は、5月1日、5月の大型連休のメーデーなど大規模集会は延期、中止させたが、飲食店やショッピングモール、公園などは通常通り営業・使用させた。プーチン大統領は5月1~10日を非労働日とし、例年よりも長い大型連休とし、感染不拡大を目指した。
モスクワ市長は5月12日、新型コロナの新規感染者数が過去6カ月間で最も多い水準になっていることを受け、暮らしに必要不可欠な従事者を除く全労働者に、5月15日から19日まで自宅待機を要請した。そして6月20日まで多くの仕事を休みとし、フードコートや遊び場を閉鎖、レストラン、バー、クラブの営業を夜11時から翌朝6時まで禁止した。
市長は、「モスクワ市の人口1200万人の60%以上に免疫が獲得されていることを考えると、今の状況は予想だにしていなかった」と釈明した。状況の急転から市長は6月16日、外食産業、教育、文化、サービス、国家機関などの全雇用者に対し、社員・従業員の60%以上のワクチン接種を義務化するよう通達した。翌17日には、接種を拒否した社員等は一時的に解雇、あるいは給与の一時的支払い停止とした。ただ、急な悪化から企業への罰則は当面行わないともいう。
政府も臨戦態勢に入り、24時間体制の感染状況モニタリングを再開した。モスクワの新規感染者数は5月25日の時点で2075人とほぼ2000人台を推移していた。ところが政府・市の施策は功を奏さず、6月13日には7704人まで跳ね上がり、6月19日、9120人と過去最多を記録した。市当局によると、新規感染者の約9割がデルタ株(インド型変異株)だということだ。一方、ロシア全土では5月中旬の新規感染者が8千人台だったが、6月26日には2万1665人と激増、2万人台が継続している。
首都圏や大都市で拡大しつつあるデルタ株に対し、第3波を低く抑えるには、ワクチン接種(5月19日時点で1回目完了約10%、2回目6・6%)の拡大いかんにかかっている、と政府は考えている。
自国製ワクチンを警戒
しかし、昨年末ワクチンの大量接種を開始したものの、国民が自国製ワクチンに警戒感を示している。ワクチン開発第3段階の治験が限定された条件下で、しかも時間をかけて行われなかったからだ。また、これまで欧州ほど第2波の感染数や死亡者が少なかったことから、切迫した状況にないと国民が感じていたこともあるようだ。
今後、感染力の非常に強いデルタ株に対し、政府に不信感を持つ国民はどう行動するのか。政府は、新たな政策を打ち出せるのだろうか。
(いぬい・いちう)