極秘のロシア新国防計画

日本対外文化協会理事 中澤 孝之

NATO軍への対応強化
軍事専門家養成へ教育を改善

中澤 孝之

日本対外文化協会理事 中澤 孝之

 プーチン・ロシア大統領は昨年11月13日、「2021~2025年ロシア連邦国防計画(以下、計画)の発効について」という大統領令第704号に署名した。これは最高機密文書であり、内容はいっさい明らかでない。大統領令を見ると、「1996年5月31日付の『国防に関する』連邦法に従って、国防分野における諸措置を遂行する目的で、次を決定する。①「計画」を2021年1月1日から発効②大統領令は署名の即日に「発効」と書かれている。

5年ごとに策定の指針

 11月13日付のタス通信は「プーチン、2021~2025年ロシア国防計画を1月1日から発効させることを決定」という見出しでこの大統領令を報じた。同報道によると、「ソ連解体後、ロシアにおける最初の『計画』は2013年1月に承認された。2020年に失効する前の『計画』は2015年11月に採択された。『計画』は、潜在的なリスク、国家安全保障の脅威が書かれ、軍事力の発展、軍備計画の実行、総動員の準備、領土防衛のような基本的な方向に関する行動がまとめられている」という。これが恐らく5年ごとに策定される「計画」の基本的な指針であると思われる。

 今回、大統領が署名した新「計画」について、大統領署名の事実だけが大統領令で公表されたものの、内容の発表ではないためか、タス通信などロシアの主なメディアは、詳しい解説抜きで、主に過去の経緯を伝える形で取り上げただけだった。

 ロシアの専門家たちの解説によると、新「計画」の主な目標は北大西洋条約機構(NATO)軍への対応とみられている。NATOの主要メンバーである米国は21世紀の今、二大政党の下で伝統ある民主主義国家らしからぬ、大統領選挙結果をめぐり司法当局を巻き込んだ、開発途上の独裁国家まがいの、常軌を逸したゴタゴタ劇をさらけ出したが、1月20日以降、トランプ政権からバイデン政権に移行する趨勢(すうせい)が予測される中、ロシアの新しい国防計画の輪郭だけでも探ってみる価値はありそうだ。

 米国のシンクタンク「ジェームズタウン財団」発行の「ユーラシア・デーリー・モニター(EDM)」に寄稿した米国のロシア専門家の論稿「プーチン、2021~2025年の機密のロシア国防計画を承認」によれば、新しい「計画」の詳細は極秘のままだが、専門家らは、軍事に絡む政治、地政学、地理経済、「ハイブリッド」の四つの個別分野で直面している挑戦にロシアがどう対処するか、ということが文書の主要な焦点になっている、との見解で一致しているという。

 同論稿はまた、「この新『計画』文書は通常、外部からの主要な危険とロシア国家が直面する脅威を記述し、ロシア軍の発展および防衛と再軍備プログラムの達成、実施のための戦略的な領域を定義し、決定している。さらに『計画』は、ロシアのいわゆる『領土防衛』の動員および組織の態勢という問題に関わる主要な条項を含んでいると推測される」と論じている。

 論稿はさらに、ロシアの愛国的軍人団体「ロシアの士官たち」メンバーの一人の分析として、「承認されたばかりの『計画』は三つの柱から成り立つ。第1の柱は、ロシアの国境近くで活動するNATO軍の力を殺(そ)ぐ方法の策定だ。西側が行っている『ロシア国境近くでの情報収集と偵察行動の増強ぶり』から言って、『計画』がこの問題に追加的な特別の条項を当てている可能性がある。第2の柱として、軍事戦略の計画と予測の領域で参謀本部が担っている責任を考えれば、参謀本部が果たす特別の役割に焦点を当てているかもしれない。高度な能力を持つロシアの軍事専門家の全体的な数を増やすための重要な前提条件としての軍事教育の改善の必要性を強調している可能性がある。第3の柱は、軍の能力向上のため、軍による、また、非正規軍による脅威に対する国家の即応性の重要な構成部分としての、ロシアの全般的な(軍事)インフラの質の問題に関するものとなっていると思われる」という。

戦略核戦力など増強へ

 「文書は恐らく、以下の三つの重要分野での能力増強を明記している。それはすなわち、(米国が中距離核戦力=INF=廃棄条約から撤退し、また欧州とアジアに核ミサイルを配備することを決めたことから考えて)戦略核戦力、宇宙、サイバー空間の三つだ」との意見も紹介している。

(なかざわ・たかゆき)