中国「強権の刃」が迫る

チベット 言語と宗教奪い民族性抹殺

拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ

 習近平体制になり、チベットへの弾圧が再び強まった。チベット語の使用が禁止され、多くの政治犯が捕まった。昨年の1月から7月の間には、54万3000人のチベット人が「職業訓練」という名の下で駆り出され、農業や遊牧などの伝統的生活を奪われた。本来チベット人は約半数が遊牧民で、残りは農業をしていたが、もう田舎には働ける人は残っていない。

ペマ・ギャルポ

 ペマ・ギャルポ 1953年、チベット・カム地方ニャロン生まれ。59年の中国軍侵略によりインドに脱出。65年に日本に移住、その後帰化。ダライ・ラマ法王アジア・太平洋地区担当初代代表などを歴任。拓殖大学国際日本文化研究所教授、チベット文化研究所所長、アジア自由民主連帯協議会会長などを務める。

 東チベットなどでは、各家庭を番号で管理し、家族構成などを完璧に把握。都市部でもGPS(全地球測位システム)や監視カメラで24時間体制で監視されている。パスポートを取り上げられているため国外に出ることもできないし、村から村へ移動するだけでも公安当局の許可が必要だ。

 宗教への弾圧も強まっており、僧侶を「非生産的である」として、強制的に寺から追い出し、台湾や東南アジアなどからの留学生を国外に退去させたりしている。また臨時の施設をつくり、結婚が許されていない僧侶と尼を同じ部屋で寝泊まりさせるという嫌がらせもしている。

 環境面では、中国の近代化に伴うエネルギー不足を補うため「西部大開発」のスローガンの下、川の流れを変え、水力発電所やダムをつくり、チベットの人々の生活と自然を破壊した。また、「観光促進」という名目で飛行場をいくつか作ったが、実態は人民解放軍の空軍基地だ。中国はチベットを、世界制覇のための軍事的な拠点にしようと開発を進めている。

 このように、習近平指導部が目指す「偉大な中華」のために、愛国心や忠誠心を無理やり押し付け、組織的・計画的・構造的にチベットの伝統や文化を破壊しているのが現状だ。これはまさに「第二の文化大革命」であり、特に言語と宗教を奪うことで、その民族のアイデンティティーそのものを抹殺しようとしている。

 しかし中国が弾圧を強めれば強めるほど、若い人を中心に民族意識が高まってきているのも事実だ。チベット人やウイグル人などの、いわゆる少数民族だけではなく、中国人の中でも、共産党員以外は良い職に就けなかったり、不遇な扱いを受けるなど、不満が高まっており、当局は焦っているだろう。

 今まで中国に融和的だったヨーロッパの国々もだんだんその正体に気づきはじめ、国際社会の中でどんどん孤立化している。

 現在の中国は、外見は強く見えるが、内側では多くの問題を強制的に抑え込んでいるのが現状だ。今後アメリカを中心に自由主義陣営が連携を強めていけば、ソ連と同じように崩壊する可能性はある。

 この戦いは単なる米中の覇権争いではなく、信仰や民主主義、基本的人権を尊重する陣営と、それを徹底的に弾圧する独裁政治、共産主義の対決だ。事実、中国を支持している国は独裁国家ばかりだ。

 今こそ中国が国際社会においてルールや秩序を守る国に変わり、共産党政権が支配している約14億人の基本的人権が尊重され、普通の生活を送れるようになる良いチャンスではないか。(談)

強行される民族浄化
農民は借金漬けに

南モンゴルクリルタイ幹事長 オルホノド・ダイチン

 2020年9月から内モンゴル自治区全域で始まった学校教育を漢語中心に切り替える政策に対し、モンゴル人は一致団結して署名運動や登校拒否などで抵抗してきたが、現在、子供たちは学校に行かざるを得なくなった。深刻なのは、当初の公文書では20年に国語、21年に政治、22年に歴史と段階的に漢語に切り替え、小・中学校共に1年生のみとなっていたが、情報筋によると、21年3月の新学期から政治と歴史を漢語で行い、中学2年生にも導入するという話だ。

オルホノド・ダイチン

 オルホノド・ダイチン 南モンゴル出身。89年内モンゴル師範大学モンゴル文学部卒業後、高校教師。2000年に来日、大阪大学大学院博士後期課程修了。06年同志と共にモンゴル自由連盟党を結成、2013年党首に就任。南モンゴルの完全独立を目指す。

 この強行には、中国共産党の焦りが強いと思う。文化大革命後ゆっくりと民族浄化を進めてきたのが、今になって急展開してきた。中国では新型コロナだけでなく米国をはじめとする制裁の効果で国内経済が悪化し、国民の不満が頂点に達している。20年に出された「食べ残し禁止」令などを見ても分かる。政治的不安が原因で弾圧を一層強めていることは明らかだ。習政権は地盤固めのため自由主義思想を徹底排除している。

 さらに深刻な問題は、南モンゴルの農民や牧畜民が銀行の融資で生活を維持している状況だ。春に借金をして農作業し、秋の収穫時に返済するが一部は返せず、担保として土地を失う。家や車を買っても、生活水準に収入が追いつかない。それも中国の狙いだ。本来モンゴルは自然豊かで、経済的に困窮するような場所ではない。

 中国の民族とされている中には文字を持たない民族もあるが、中国はモンゴルやチベット、ウイグル、朝鮮族など歴史ある民族を特に弾圧している。中国と関係ない民族であることが明らかだからだ。

 20年12月には、中国共産党の民族省のトップがモンゴル人から中国人に交代させられた。今までは形だけ漢族以外の民族を据えていたが、今後堂々と弾圧を続けるという意思表示とも見られる。教員や公務員を中心に「再教育」の名目で洗脳教育も行い、中華思想を植え付けようとしている。

 中国は今、国際情勢の中でかなり厳しい状況にある。新型コロナウイルスが中国から発生したことは、中国自身が否定しているだけで世界中の誰もが知っている。米国を中心とした経済制裁や、人権侵害に対する政策は功を奏している。

 一方、日本は危険な状況と言える。土地が中国人に買収され侵食されつつある中で経済制裁もせず、王毅外相を招く有様だ。今の国際情勢では「自由で開かれたインド太平洋」をしっかりと実行することが大切だ。賢明な判断を願いたい。

 中国共産党は100歳を前に、少し押せば倒れるような状況にきていると思う。南モンゴルの独立が、三度目の正直で成し遂げられるチャンスとなるだろう。モンゴル国国民や世界中のモンゴル人、留学生の若者たちが一致団結している以上、南モンゴルは孤独ではない。2021年は転換の年になることを期待している。(談)

香港 同化政策「気付いた時は遅かった」

Stand wⅰth HK@JPN ウィリアム・リー

 1997年の香港返還以降、香港はじわじわと浸食されていった。当時はまだ信頼に足るものだった英中共同声明も、今はただの紙切れと化した。返還時から広東語と英語に加え普通話(北京語)が使われるようになり、移民の中国人が当局に陳情して普通話の割合を増やさせるという方法で中国語が浸透していった。気付いた時には遅かった。

ウィリアム・リー

 ウィリアム・リー 1993年8月生まれ。香港東華学園卒業後、2018年に来日。19年から東京の香港民主化運動に参加し始め、20年9月、国連人権理事会で台湾へ密航途中に中国当局に拘束された香港民主活動家12人の解放を求めスピーチした。

 2019年の逃亡犯条例改正案は中国の強権発動の一例だ。香港人の反発を招き撤回されたが、反感は残った。それをコントロールすることが国家安全維持法(国安法)成立の一因だと思う。

 国安法は定義が幅広く曖昧なため、反政府的な人物のSNSに「いいね」を押しただけでも犯罪になるのかとか、一般市民にとっては疑問を抱かせる。さらに裁判官は行政長官が指名し、罪によっては審議の過程は非公表とする場合もある。香港人は逮捕されることは恐れないが、無実の罪で裁かれることも想定できるのが恐ろしい点だ。今は街中でのデモや大規模な集会はほとんどなくなった。香港政府が国安法という武器を持つことで、香港人がデモをしない理由を作ることが中国の狙いだと思う。

 私自身、デモへの参加中に公務執行妨害容疑で取り押さえられ、背負っていたリュックの中に工作用のカッターが入っていたため武器の所持で現行犯逮捕された。今は保釈中だが、コロナウイルスの影響で香港に戻りづらいため、定期的に警察に連絡している。

 香港は英国領時代から本当の普通選挙がなく、区議会は法律を触れない。まずは香港人自身が香港の在り方を投票で決められる環境が必要だと考えている。

 日本には、まず香港を脱出したい香港人を受け入れる政策を取ってほしい。資金の問題で英国や米国に行けない人もいるだろうし、同じアジアの国である日本は選択肢に入りやすい。救いの手を差し伸べてほしい。

 次は制裁だ。中国は歴史的にも地理的にも、良くも悪くも日本から離れられない。日本は人気の観光地で在日中国人も多く、制裁の影響が大きいことは間違いない。ウイグルの強制収容所の存在が発覚した時、香港は沈黙した。それが誤ったメッセージとなり、結果的に中国の人権侵害を黙認したことになってしまった。

 人権侵害は広がるものだ。自分の身に降りかかった時にはもう遅い。逃亡犯条例改正案の出る一年前にも、香港でデモが起こるなんて思いもしなかった。

 日本人は実際に危機が迫れば立ち向かうことはできるだろう。しかしそうなった時には遅い。日本には次の香港になってほしくない。正しい選択をするためにも、特に日本の若者たちは政治に関心を持ってほしい。香港を助けるためにも、日本が平和であり続けられるよう、情報発信していきたい。(談)