香港、ウイグル、チベット
「中台統一」口実に長期政権狙う
三峡ダム攻撃、台湾のカウンターパワーに
台湾 アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司
国家主席の任期制限(2期10年)を撤廃する憲法改正を承認し、習近平国家主席続投の道を敷いたのは、2018年3月の全人代(全国人民代表大会)だった。
この際、習氏は「中台統一には時間がかかる」ことを口実にしたとされる。
その意味では、習氏にとって台湾併合問題は政権の正統性を懸けた重大課題だ。
何より中国は、第1列島線を確実に破り、できれば第2、第3列島線まで到達したいと思っている。それに対し米は、とりあえず第一列島線で封じ込めたいわけだから、台湾の地政学的な価値は米中双方にとって絶大なものがある。
また世界最小レベルのチップ製造能力を持つ台湾積体電路製造(TSMC)に代表される台湾の技術力と製造能力は、経済や安全保障と絡み中国にとって垂涎の的だ。
ただ、一部報道に見られる中国の武力統一に打って出るという見方は誤っている。
台湾の後ろ盾となっている米国には台湾関係法があり、台湾人の生命・財産・人権の防衛を保障している。
その米国が出てきた時、中国が勝てるのかというと今の戦力では勝算はおぼつかない。
米国が出てくるのは分かっているし、場合によっては日本もかけつける可能性もある。イギリスも、フランスももしくはドイツまで出てくる可能性さえある。
米第7艦隊が駆けつける前の3日間で台湾を征服するというシナリオも浮上しているが、現実的ではない。核戦争は前提にしていないが、核を使わない限り、台湾と中国はどっちが勝つか分からないきわどい戦いになるからだ。中国から軍事攻撃を受けて戦争になった場合、「台湾のために戦う」と考える台湾人が、8割近くに上るなど台湾人の愛国心が高いこともアンケートで判明している。
決定的なのは中国のアキレス腱(けん)となっている三峡ダムだ。1500㌔の射程距離を持つ台湾の中距離ミサイルは、北京までは届かないが三峡ダムには十分届く。台湾から三峡ダムまで1100㌔しかない。
三峡ダムが崩壊すれば、数億人は被害を受け上海まで水浸しになる可能性がある。
その意味でも中国の侵攻を抑えるカウンターパワーとして、台湾の中距離ミサイルは牽制(けんせい)力を持つ。
中国は昨今、軍の統帥権を持つ習氏が「戦って勝てる軍隊」へのはっぱをかけたり、制服組トップの許其亮・中央軍事委員会副主席が「能動的な戦争立案」に言及するなど強硬姿勢が目立つのは事実だが、あくまで内部の引き締めを図ったものであり、中国にはそう簡単にやれない内部事情もある。
目下、「習派」対「反習派」間で深刻な党内闘争が起きており、党内が一致団結して戦争を遂行できる状況にはない。
ただ、狭いところでの武力衝突はあるかもしれない。それが台湾本土だと戦争になるからたやすくはないが、南シナ海の太平島や金門・媽祖といった辺境地域に攻め入ってくる可能性はある。
その目的は蔡英文政権に向けた政治的脅しというのもあるだろうし、台湾の実効支配しているところを取ってしまえば、オセロゲームと同じように白が黒に変わるターニングポイントにすることも可能だからだ。
ともあれ台湾の危機は日本の危機でもある。昨日の香港は今日の台湾であり、明日の日本でもあるからだ。我が国は台湾の安全保障を守る覚悟が問われる。
(談)