新型コロナ第2波のロシア

ロシア研究家 乾 一宇

欧州諸国より低い致死率
経済活動活発化させ共生図る

乾 一宇

ロシア研究家 乾 一宇

 欧州で新型コロナウイルスの第2波感染拡大の勢いが増している。

 ロシアは、第1波が5月上旬に1日の感染者が1万人台に達し、その後感染者が徐々に減少、8月中旬に4千人台に減少した。とくにモスクワは感染者が半減(7月中旬5百人台)、他方、地方において若干の拡大傾向にあった。

 それが、欧州同様、モスクワなど大都市で徐々に感染者が拡大し始め(9月下旬からモスクワ千人台突破)、第2波到来と懸念されている。第2波は、新感染者数の急激な増大と回復者数の大きな乖離が生じた9月下旬~10月上旬ごろに始まった。一方、地方は低い数で横ばいが最近の特徴である。

人種・地域で状況に差異

 これまで、第1波感染者の抗体保持により第2波の感染者の低い水準を予測する向きもあった。だが最近、抗体の維持期間は短いという見解が有力となってきた。大阪大学の宮坂教授は7月時点で、免疫期間を半年程度と予測している。ロシアの場合、第2波到来とすれば、自然免疫の有効期間は3~4カ月となる。

 ここで、コロナの武漢発生が報道されてから10カ月、この間の研究成果を踏まえ、新型コロナウイルスの特性を考えてみたい。

 まず第一は研究成果でないが、PCR検査についてだ。この検査の精度は約7割である。しかも、検体提出時の判定である。陰性と出ても、検体提出以降に感染すれば、他人に感染させる状態かもしれない。検査は目的があって実施するものであり、目的が曖昧なまま検査数を拡充しても、資源・資金の無駄使いとなる。

 第二は、病原体が侵入しても、先天的に備わった自然免疫が強ければ新型コロナウイルスを撃退でき、このような人が多いことが分かってきた。さらに撃退できないとき、生後獲得していく獲得免疫が発動されて撃退できる。最近言われる、発症しても無症状、あるいは軽症で済むことが多いのはこれらのことによる。

 ここで注意しなければならないのは、感染者のある者が短時間のうちに重症になり、死に至ることである。特に高齢者や基礎疾患を患っている人は要注意である。

 第三は、人種、地域、その他の要因で感染状態が異なることだ。コロナを軽く見ていた欧州でコロナは猛威を振るった。一方、アジア・オセアニアでは、死亡者が少ない。

 これを、百万人当たりの死亡者数(以下数字は断らない限り10月15日時点)で見ると、ベルギー886人、スペイン718人、英国637人、イタリア602人、フランス507人、ドイツ117人である。一方、フィリピン59人、インドネシア45人、ミャンマー14人、日本13人、韓国9人、マレーシア5人、中国3人、ベトナム0・4人である。欧州とアジアの差は、公衆衛生や個人の衛生管理の優劣とは関係ない事象である。

 BCG接種国と非接種国では、アジアの多くの接種国が低い死亡率を示し、BCGを廃止しているスペイン、英、仏、独(伊は非接種)は死亡率が高く、BCG接種の有無が関係しているのかもしれない。

 右は数字の比較であり、原因・理由などは今後さらに検討されるだろうが、人の営為に関わることなので、明確な結論は得られにくいかもしれない。

 第四は、コロナ対策と経済活動のバランスや人の心理傾向などをどう考えるかである。これもまた、試行錯誤を繰り返しながらやっていくしかない。

 10月15日時点のロシアの新型コロナウイルスの状況は、感染者累計約135万人で世界4位、同日の新感染者1万3754人、死亡者285人、累計死亡者2万3491人(百万人当たり161人)である。

死者少ない旧ソ連諸国

 欧州に比べロシアは、百万人当たり死亡者数が少ない状況を維持している。多民族国家であるが、ロシア人の割合は約8割強で、人種的にはアジア系とは異なる。BCG接種をしているロシアは、現在接種していない英、仏、スペイン、ベルギーなどに比べ少ない。ちなみに、ソ連邦崩壊後独立した旧ソ連邦構成諸国の百万人当たり死亡者は、アルメニア353人、カザフスタン161人の他はロシアより少ない。つまり、欧米に比し旧ソ連邦諸国は致死率が低い。

 ロシアは、感染者数の増減に一喜一憂せず、経済活動を活発化させつつあり、コロナと共生、感染者の重症化を避けながら乗り切ろうとしているやに見える。

(いぬい・いちう)