米国 民主穏健派、党の左傾化非難

上下院選不振で対立表面化

 米大統領選と同時に3日に実施された連邦上下院選で、大方の予想を覆し、共和党が健闘した。結果が振るわなかった民主党では、穏健派から党の左傾化が苦戦の原因だと非難の声が上がった。今後の党の方向性をめぐって、対立が表面化している。(ワシントン・山崎洋介)

「警察予算打ち切れ」急進派の主張が足枷に

 民主党が大統領選でトランプ大統領を惨敗に追い込み、上下院選でも圧勝するという「ブルーウエーブ」への期待は幻に終わった。

米連邦議会で発言する民主党穏健派のクライバーン下院議員(UPI)

米連邦議会で発言する民主党穏健派のクライバーン下院議員(UPI)

 大統領選で、民主党のバイデン前副大統領はトランプ氏による終盤の猛追によって大票田フロリダ州を落とすなど大接戦に持ち込まれた。また同党は上院では多数派を奪還する可能性が狭まり、下院で過半数を維持するものの議席を減らす見通しとなった。

 上院では、事前の予想で劣勢とみられていた共和党のコリンズ上院議員(メーン州)や接戦とされていたグラム上院議員(サウスカロライナ州)が大差で勝利するなど、同党が勢いを見せた。

 期待外れの結果に終わったことを受け、民主党中道派からは、党の左傾化によって穏健派の有権者を遠ざけたことが苦戦の原因だとの非難が相次いだ。

 特に民主党の急進左派が支持した「警察予算を打ち切れ」というスローガンが共和党からの格好の攻撃材料となった。実際にワシントン・ポスト紙による出口調査によると、「犯罪対策」を重視する有権者のうち71%がトランプ氏に投票しており、連邦議会選でもこの争点が共和党へ有利に働いたことがうかがわれる。

 同党予備選でバイデン氏が逆転勝利を果たした立役者でもあるクライバーン下院議員(サウスカロライナ州選出)は8日、CNNテレビに出演し、「警察予算を打ち切れ」のスローガンが民主党候補の「政治的努力を台無しにした」と指摘。これが同州の下院選で民主党現職議員が落選した原因にもなったと批判した。

 ワシントン・ポスト紙によると、同党穏健派のスパンバーガー下院議員(バージニア州)は、同僚議員との電話会議で、このスローガンにより自身が危うく落選しかけたと不満を述べ、「社会主義という言葉を二度と使うべきではない。原点に立ち返るべきだ」と語った。

 一方、「民主社会主義者」を自称するオカシオコルテス下院議員はCNNの番組で、こうした批判は党内の亀裂を招くと指摘し、「すでに微妙な緊張関係にあるところにガソリンを注ぐのは無責任だ」と牽制(けんせい)した。

 急進左派は、サンダース上院議員が4月に同党予備選から撤退後、バイデン氏と共同で政策提言を発表するなど協力関係を構築し、民主党政権誕生後の影響力確保を目指してきた。サンダース氏は8日、MSNBCの番組で「選挙中にバイデン氏が計画し、戦った政策構想について責任を取らせるつもりだ」と述べ、自身の政策を実現させることに強い意欲を示した。

 こうした中、注目が高まっているのが、来年1月5日に持ち越された南部ジョージア州における二つの上院選の決選投票だ。

 上院選(定数100)ではこれまで共和党が49議席、民主党が48議席を獲得。残る3議席のうち一つは共和党が優勢で、同党は決選投票で一つでも確保すれば、多数派を維持する見込み。

 大統領選では、バイデン氏が「勝利」を宣言したのに対し、トランプ氏は法廷闘争で徹底抗戦する方針で、結果が確定するまでしばらくかかる見通しだ。仮にバイデン氏が大統領に就任することになったとしても、共和党が上院で多数派を維持すれば、共和党は急進左派が目指す企業と富裕層に対する増税、温暖化対策案「グリーン・ニューディール」、連邦最高裁判所判事の定員を増員しリベラル派判事を送り込む「コート・パッキング」を阻止することができる。

 米メディアによると、急進左派のウォーレン上院議員は財務長官、サンダース氏は労働長官のポストに就くことにそれぞれ意欲を示しているが、こうした人事も実現性が乏しくなる。

 共和党が上院で多数派を握れば、仮にバイデン政権が誕生しても、左派の台頭に一定の歯止めがかかることになりそうだ。