高レベル横ばいの ロシアコロナ禍
ロシア研究家 乾 一宇
検査体制拡充し死亡者減
医療貧弱な地方で感染者増加
新型コロナウイルスの感染は、世界中に拡大し、とどまるところをしらない状態にある。このウイルスをいかに制御し、その被害を最小限にするかの方策は、国によって異なる。欧州では、約3カ月の狂乱ののち、今では徐々に経済再生の方向にある。
米に次ぐ検査数の多さ
欧米に比べ感染者のピークが遅かったロシアでは、まだ感染者が増大している。6月15日現在、新感染者は8246人と世界で1位、次にパキスタン、メキシコが続いている。ただ、ロシアの感染者の多さは、検査の多さ(15日現在、検査総数は1500万件を超え、15日1日の検査数は28万1000件。100万人当たりにすると10万4000件)にもある。ロシアは早くから、世界でも米国に次ぐ検査数の多さを誇っている。
死亡者数が100万人当たり2桁の49人(15日現在)で1桁台のアジア諸国(BCG接種国)と同じ傾向にあり、3桁台の西欧諸国と大きく異なる。死亡者を低く抑えているとの見方もあるが、それにしても欧米と1桁少ないのは特異なことを示している。
ロシアも日本も、中国武漢発の第1波は最小限の被害で乗りきった。第2波で日露は異なる状況になっている。日本には3月頃に欧米からの帰国者が第2波をもたらした。ロシアは主に、3月初旬イタリアやフランスへの旅行者が持ち帰ったことによる。3月頃の日露の状況は同じようであった。
その後、日本とロシアの新感染者数は、大きな開きが出てきた。当初は日本の方が感染者数は上回って推移していたが、3月31日に初めてロシアが日本を抜き、それ以降どんどん差がついていった。6月15日時点で、感染者累積で31倍、15日1日の新感染者数では187倍と大きな差がついている。この差の要因は、日本の検査数の極端な少なさがあるほか、日本の医療体制の充実、公衆衛生の発達、国民の衛生観念の高さ、自粛要請への従順などが考えられる。
日本と比べると大きな差があるが、6月に入ってのロシアの感染状況を見ると、1日当たりの新感染者数は5月の最大1万人超から8000人台と、減少傾向にはある。検査体制を拡充して感染者を早期に発見し、隔離する医療体制の確立が、死亡者減につながっているのだろう。これを裏付けるように、6月5日、世界保健機関(WHO)報道官は、ロシアはプラトー期(ピーク後の横ばい状態)に入ったと述べている。
地域としては、モスクワ市が国内感染者の38・6%(15日)を占め、同市の新感染者は5月の6000人台から6月に入って1000人台となり、ピークを越えたように見える。
一方、モスクワ市以外の地方はまだ感染者が増加している。地方は医療体制にばらつきがあり、医療体制が貧弱な地方では感染が拡大している。しかも、患者受け入れが十分でない所もある。地方の大きな人口の所には、企業城下町というソ連時代から栄えた地方がある。特定産業に経済、また社会、病院から学校までを依存している。コロナ禍において、企業が属する組織を守ることが良い方向に作用すればいい結果が出るし、悪い方に作用すると思わぬ結果を招く。このようなことが、地方で起こっているのかもしれない。
モスクワ市では、6月9日、新型コロナウイルス感染防止のために2カ月あまりにわたり実施されていた封鎖が解除された。ただ、先述したように感染者数は1000人台の高いレベルでの横ばいという状況の中での措置であった。モスクワでは9日から、外出や公共交通機関の利用が自由になり、自家用車による都市間の移動も電子通行証が不要になった。
封鎖解除に対し政府批判派からは、24日の軍事パレードや7月1日の憲法改正をめぐる国民投票をにらみ封鎖解除を急いだとの声も出ている。
水際対策など課題に
世界の傾向を見れば、収まりつつある地域がある中、WHOは、世界全体としていまだ増加傾向にあるとみている。
感染者のうち約8割が無症状・軽症という新型コロナの特徴から、今のところロシアの検査態勢は功を奏しており、新たな高リスク集団の阻止(水際対策)、濃厚接触者の追跡・隔離(集団感染対策)をこれまで以上に徹底できるか、どうかに懸かっている。
(いぬい・いちう)