新しい道徳教育の授業現場の課題が討論される
元北海道教育大学教職大学院教授 追分充氏が講演・模範授業
2018年度以降「特別の教科」に位置付けられた道徳は、新学習指導要領に基づいて昨年度から小学校で、今年から中学校において全面的に実施されている。背景には、依然として後を絶たない子供の「いじめ・自殺」問題もあるとされるが、そうした中で民間の教育研究団体である北海道人格教育協議会はこのほど、道徳教育をテーマにフォーラムを開催した。教科として授業を行う教育の現場で何が課題か討論された。(札幌支局・湯朝 肇)
民間教育団体「北海道人格教育協議会」がフォーラム開催
「教科としての道徳が実施されたことで道徳の授業は変わっていきます。従来の『読み取り道徳』から『考え、対話し、自己を見詰める道徳』へ移っていきます」――こう語るのは、元北海道教育大学教職大学院教授の追分充氏。7月11日、札幌市内で開かれた北海道人格教育協議会主催のフォーラムで同氏は、昨年度から特別な教科として授業が始まっている道徳について、時代的変遷や文部科学省が今回、「特別の教科化」に決定した狙いなどを詳しく説明し、その上で模範的な道徳の授業を披露した。
「特別の教科化」としての道徳の4つの背景などを説明
このうち、「教科化」の背景として道徳は、①他教科に比べて軽んじられ、他の教科に振り替えられるなど実質的な指導がされていなかったという量的問題②教員をはじめとする教育関係者にも道徳教育の理念が十分に理解されていなかったという質的課題③いじめの増加やそれを苦にして自ら命を絶つ痛ましい事件が後を絶たないという実情――があるなどこれまで道徳教育は約10年ごとに行われる学習指導要領の改訂のたびに新しい指導方針を付加してきたものの、教科から外れていたこともあって形骸化していたことも否めない。
その上で、教科としての道徳授業を進めるポイントについては、「単に教材を読んで『こうあるべきだ』といった結論ありきで授業を進めるのではなく、生徒自らが考え、対話する(主体的・対話的で深い学び)ことを通して子供たちの道徳性を養うことが重要だ」と訴える。この日は小学校4年の教材として、『私たちの道徳』の中の作品「心と心の握手」を取り上げた。ある男の子が家の近くで荷物を持って歩いている足の悪いお婆(ばあ)さんに手を差し伸べるべきかを思い悩む行動を通して、「どのように男の子はお婆さんに対処すればよかったのか」を対話のテーマとすることを提示し、「本当の親切・思いやりとは何か」を自ら考えさせることで道徳的価値を深めると同時に自己の生き方につながる模範授業を展開した。
会場からは「道徳の授業で生徒の成長をどう評価するか」「道徳は選科制ではなく学級担任が行いますが、果たしてそれで深い道徳的価値を行えるのでしょうか」などといった質問が出た。
「学校全体で生徒一人ひとりを見詰めていく体制構築が必要」と指摘
「道徳授業は年間で35時間行いますが、進める内容は1時間で完結します。その1時間の中で子供たちの心を揺らす授業をしなければなりません。そういう意味で教える教師の力量が問われてきます」と追分氏は述べるが、その一方で「道徳教育とは単に道徳の授業のみで行うべきものではなく、各教科もまた道徳的価値をもって教えることが求められています。学校全体で生徒一人ひとりを見詰めていく体制をつくる必要がある」と指摘する。
北海道人格教育協議会は、その名のごとく人格教育の研究・研修機会の提供や啓発活動を行うことを目的に2016年に発足した。現在は、道内の大学教授や小中学校、高校の教員など50人ほどの会員を擁し、これまで定期的にフォーラムの開催や研究紀要の発行を続けている。今回7回目のフォーラムで同協議会会長の山谷敬三郎・北翔大学学長は、「新型コロナウイルスで延期に延期を重ねた今回のフォーラムだったが、開催できて本当にうれしい」と述べた上で、「道徳教育は人格の根幹をつくるもの。地域社会や国家は人間が形成していくもの。道徳に対して学校教育の中できちんとした取り組みをすることが重要。当協議会としても研修・研究を重ねて今後も人格教育の在り方を提案していきたい」と語った。