日米で「統合防空」進めよ ミサイル・尖閣防衛 元海将 伊藤俊幸氏

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海上保安庁を内閣直轄に ミサイル・尖閣防衛 元海将 伊藤俊幸氏

金沢工業大学虎ノ門大学院教授、元海将 伊藤俊幸氏

 日本の防衛体制が重大な危機に直面している。陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」配備計画断念によりミサイル防衛に穴が開き、中国公船が連日、尖閣諸島周辺を我が物顔で航行し、領海侵犯を繰り返している。日本のあるべき安全保障政策について、元海将で金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸氏に聞いた。(聞き手=政治部・岸元玲七、写真・加藤玲和)

元海上自衛隊海将 伊藤俊幸(いとう・としゆき)氏 1958年生まれ。防衛大卒、筑波大大学院修士課程修了。海上自衛隊で潜水艦乗りに。潜水艦はやしお艦長、在米防衛駐在官、第2潜水隊司令、第2術科学校長、統合幕僚学校長、呉地方総監などを歴任。元海将。現在、金沢工業大学虎ノ門大学院教授。

元海上自衛隊海将 伊藤俊幸(いとう・としゆき)氏 1958年生まれ。防衛大卒、筑波大大学院修士課程修了。海上自衛隊で潜水艦乗りに。潜水艦はやしお艦長、在米防衛駐在官、第2潜水隊司令、第2術科学校長、統合幕僚学校長、呉地方総監などを歴任。元海将。現在、金沢工業大学虎ノ門大学院教授。

「イージス・アショア」配備を断念したが。

 河野太郎防衛相は、迎撃ミサイルのブースター落下問題でミサイルそのものの改造に12年、追加費用が2000億円かかることを理由に、計画自体を停止するとした。構成品や配備地の選定およびその後の地元説明も含め、防衛省の一連の手続きはあまりにずさんだった。大臣として、全ての報告を聞き、これは駄目だと河野氏が計画そのものを打ち切ったのだろう。

 ただ、核爆発を防ぐことと、部品が落ちて住民が怪我(けが)するかもしれないことが同列に扱われ、それを理由として中止にしたことには違和感がある。

導入過程から問題があったと指摘されている。

 日本政府が、平成30年の防衛大綱・中期防・概算要求などに間に合わせるため、慌てて決めてしまったという感じだ。防衛省も、米陸海空軍などから多角的に意見を聴取したのではなく、米国ミサイル防衛庁からだけの説明を聞き、構成品を決めてしまったと疑わざるを得ない。

 米ミサイル防衛庁が示した選択肢は、すでに米海軍が新型イージス艦へ導入し、製造開始していたレイセオン製「SPY6」と、実物は存在しないロッキード・マーチン製の「LMSSR」だった。そして防衛省は、なぜか後者を選んだ。これが間違っている。

 もともとミサイル防衛はロッキード・マーチンが仕切っていた世界。ところが米海軍はNIFC-CA(海軍統合対空武器管制)という、ネットワークを組み、さまざまなセンサーとミサイルをAIを駆使して発射するシステムを構築するため、長年のパートナーであるロッキード・マーチンと決別し、レイセオンにシフトした。米ミサイル防衛庁が、外されてしまった側の救済のため日本に売り込んだのではないか、との疑念が生まれるのも無理はない。

 こうした疑問を、昨年から長島昭久衆院議員が国会で防衛省に繰り返し質問してきたが、「米国で起きていることについてお答えする立場にない」とまともに答えなかった。「なぜ実物を見たこともないロッキード製なのか」という長島氏の質問の本質に防衛省は一切答えていないのだ。

自民党は代替案を検討中だ。

 心配なのは、9月までに代替案を決めるには時間がなく、前回と同じ拙速な決定になることだ。3カ月でまともな議論ができるのか。

 これは、1年以上かけて米国から十分な情報収集・分析をした上で、日本全体の防空をどうするのか、総合的に議論すべき話だ。最終的なゴールは、あらゆる種類の敵ミサイルの迎撃を陸海空軍で一元的に行う「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」を日米で進めることだ。これは5年以上前から日米の研究者間では議論が行われている。まずはこういった専門家の意見を聞き、日本全体としてどういう選択肢があるかを国家安全保障会議(NSC)でしっかりと議論してもらいたい。

敵基地攻撃能力で抑止力強化

自民党内で敵基地攻撃能力の保有に関する議論が出ている。

 日本としては、弾道ミサイル防衛の一部として敵基地攻撃能力を考えるべきだろう。弾道ミサイル防衛は、有事の際に迎撃する「防御力」としての役割だけではなく、平時においては「抑止力」としての意味合いが大きい。「高価な弾道ミサイルを発射しても、落とされるからやめておこう」と費用対効果の観点から相手の攻撃意図をくじく「拒否的抑止」になっている。

 敵基地攻撃能力というと、「どの段階で攻撃すればよいのか」がすぐ議論になるが、日本の現状で、兆候を察知しただけで、敵基地を攻撃することは政治的にも技術的にも不可能だ。

 それよりも、いったん敵が弾道ミサイルを発射すれば、発射位置はピンポイントで把握できることを利用し、発射された弾道ミサイルを迎撃するとともに、遠距離から航空自衛隊が長距離ミサイルで「発射基地を全て破壊する」とすればよい。そもそも先に相手が撃ってきたのだから、完全な自衛権の発動だ。

 この機能が付加されれば、敵からすれば、「弾道ミサイルを発射すると、落とされる上に軍事基地や兵器も破壊される」となり、さらに損になるから「発射はやめておこう」となる。米国などの核兵器による「懲罰的抑止」までの意味はないが、これまでの「拒否的抑止力」に「少しの懲罰的抑止力」を日本自らが持つことになる。

非核三原則の見直し論をどう評価するか。

 「持ち込ませず」を政策でわざわざうたう必要はない。「作らず、持たず」の非核二原則でいい。抑止力の相手が一番嫌なのは、「あるかないか分からない」ことだ。「持ち込ませず」はせっかくの米国の核の傘に、日本自らほころびを作ることになってしまっている。核の傘に抑止を依存している国であるならば言ってはいけない。論理矛盾だ。