若者が輝ける社会 「早活人材」は日本の秘宝


知識や情報より行動力
小さな一歩の積み重ねを大切に

一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事 古屋 星斗氏に聞く

 少子高齢化に伴う労働人口の減少に対し「一億総活躍社会」を掲げた日本政府は、これまで女性活躍、シニア世代の就労支援、外国人労働者の事実上受け入れなどへと舵(かじ)を切ってきた。そんな中、近年は中卒・高卒や専門学校卒、大学中退など、大卒以外の学歴を持つ「早活人材」の雇用や待遇の見直しを求める動きが広がっている。その先導役の1人である一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事の古屋星斗氏に話を聞いた。(聞き手=辻本奈緒子)

一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事 古屋星斗氏

一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事 古屋星斗氏

古屋さんは大学を経ずに社会に出た若者を「早活人材」と呼んでいる。

 これまで非大卒人材などと呼ばれていたが、「非」という否定形の言葉を使っているところに、大卒が社会の基準であるという価値観が表れてしまっている。実際は若年層社会人のおよそ半数を占める(専門学校卒等を含む)彼らを肯定的に捉えられる言い方はないかと公募をし、集まった中から選んだのが「早活人材」だ。「早く社会に出て活躍している」という事実に焦点を当てた言葉で、今後世間に浸透させていきたいと思う。

若手人材活用における課題は。

 高校生就活では、学校とハローワークを通じての就職あっせんや、応募は1人1社制といった慣行が通例化しており、大学生の就活のような手厚いサポートがない。高卒者は県内での就職が大半で中小企業が多いといった特徴があり、大卒に比べ早期離職率が高いのは相談相手が少ない、選択肢が狭いために仕事への満足度が低いことなどが考えられる。

 これは国家総動員体制下の昭和16年に施行された労務調整令に端を発していると考えられ、就職率の安定を図るセーフティーネットの役割を果たす一方、就職先の選択肢が狭まるという点では現代社会の変化に合っていない。もちろん地域社会や産業を支える人材は必要だが、多様な選択肢があると知った上で地元に貢献するのと、自らの可能性に気付かないまま就職するのとでは、将来像が全く違う。

政府もワーキングチームを結成するなど、現状を見直す動きが進んでいる。社会的な認知度はどうか。

 ここ5年ほどで働き方改革などが叫ばれ、人材活用に関する社会的変化の流れでようやく政府も動き出した。賛同してくれる教員が出てきたことや、メディア等で取り上げられ始めたことも大きい。2020年は日本社会が「早活人材のポテンシャルを再発見した年」と言えるだろう。

 ただ、政治家や官僚、教員、メディア等で働く人々は早活人材の当事者でないことが多く、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)があることも感じる。より広く理解を得て、当事者たちの声を聞きながら、彼らが幸せになれるような社会を築くために発信を続けていきたい。

教育現場への提言は。

 学校で進路指導をする先生自身が、そもそも民間企業への就活や社会人経験のない場合がほとんどだ。教員が就職の指導を抱えてしまうことは、生徒の将来にとって有益か大いに疑問を感じる。また、何より先生の負担が大きい。熱心に取り組む先生がいらっしゃる一方で、公立学校の教諭は転勤が多いため学校に根付かないという問題点もある。地域のいくつかの学校に対し一人でもいいので、外部からキャリア教育や就職先開拓の専門家を招き、教員は強みのある分野に専念してもらうのが得策だ。そのための人材や予算についても、国や行政が議論していく必要がある。

スクール・トゥ・ワーク主催のイベントで話をする古屋さん

スクール・トゥ・ワーク主催のイベントで話をする古屋さん

採用する企業での変化はあるか。

 地方にある企業は若手人材の獲得のため、多様な取り組みを行っている。例えば来年度から高卒採用を再開する静岡銀行では、入行から4年間は大学の夜間コースか通信制大学に通うことを条件にし、受験料や学費を全額負担するという試みを計画している。日本の大手企業でもかつて、こうした人材への投資を行っていた時期があった。

少子高齢化という転機を迎えた日本社会の未来にとって、若い世代のキャリア形成についてどういった展望があるか。

 これまでは学歴による待遇の格差を当たり前と思っていた早活人材の当事者らも、自身の可能性に気付いてより活躍の場を広げられるきっかけになるのではと期待している。

 必要な情報が簡単に手に入るようになった今、情報を持っていること自体はさほど重要ではなくなった。今後は知識や情報よりも、体験や行動を起こすか否かで格差が生じる時代になる。少しでもやってみたいと思うことがあるなら、取りあえず誰かに話してみてもいいし、ツイッターで呟(つぶや)いてみるだけでもいい。思ったことを小さくても行動に移すことで、世界が広がることもある。私の関わった人では、クラウドファンディングでカメラの購入資金を集め、今はカメラマンとして活躍している女性がいる。若者には、そうした「スモール・ステップ」の積み重ねをいとわないでほしい。

 自然資源の乏しい日本では、人材が唯一の資源だ。若者たち、特にこれまで取り残されていた可能性の宝庫である早活人材が、一歩を踏み出し活躍できる社会をつくれれば、日本の未来は面白いものになるだろう。


 古屋 星斗(ふるや・しょうと) 1986年岐阜県生まれ。2011年一橋大学大学院社会学研究科修了、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、成長戦略の策定に携わり、日本のアニメの制作現場から、東北の仮設住宅まで駆け回る。現在は退官し、民間研究機関の研究員として、学生や若手社会人のキャリア形成を研究する傍ら、若手人材のキャリア支援を行っている。