露改憲、プーチン大統領続投へ

職場通じ「賛成」圧力か
上司が”投票チェック”の恐れも

 プーチン大統領(67)の長期続投を可能とするロシアの憲法改正案が、国民投票で8割近い賛成票を集めて承認され、4日に発効した。最低賃金の保障や年金の物価スライド制導入など、国民受けのいい改正点をアピールし国民の歓心を買う一方、国営企業や大企業などを通じて、投票内容が筒抜けになる危険性がある職場での投票を事実上強制し、賛成票を積み上げたとみられている。(モスクワ支局)

1日、モスクワで進む憲法改正に向けた全国投票の開票作業(AFP時事)

1日、モスクワで進む憲法改正に向けた全国投票の開票作業(AFP時事)

 プーチン政権は新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中で6月24日、対独戦勝75周年を祝う軍事パレードや各種式典を大々的に挙行した。「ファシストから欧州を解放した」と、ロシア人の愛国心を鼓舞するロシアで最も重要な行事の一つである。

 その高揚感が冷めやらない翌25日から7月1日までの7日間、憲法改正を問う国民投票が実施された。中央選管は3日、投票率は67・97%、賛成票は77・92%と公式発表。翌4日に改正憲法が発効した。

 各種世論調査や投票期間中の出口調査から、ここまで賛成票が伸びると見られていなかった。

 憲法改正は200以上の項目にわたる。政府は繰り返し「祖国の運命に無関心でいられない人々は必ず投票すべきだ」と呼び掛けた。特にメディアで繰り返し報じられたのが、物価の上昇を考慮して年金の受給額を毎年見直すことや、最低賃金の保障などである。

 しかし、プーチン大統領が最も欲していたのは、自らの続投を可能とする「現職の大統領については過去または現在の任期を考慮しない」という項目だ。これまでの任期を「チャラ」にすることで、通算4期目のプーチン氏は、24年に行われる次期大統領選に出馬が可能となり、さらに2期12年、83歳までの続投が可能となった。

 主要メディアが放映した憲法改正の討論会などで、このテーマに触れることはなかった。しかし、だからといって、この狙いに誰も気付かないわけではない。

 賛成票を確実に増やすためにクレムリンが行ったのは、国営企業や大企業、公官庁、学校や公的医療機関などに勤務する人々に対し、一般の投票所ではなく、勤め先の企業に設置した投票所で投票させることだった。上司らが投票箱をチェックしていないという保証はない。もし反対票を投じたら、何らかの理由を付けられ、解雇されるかもしれない。

 ともかく、憲法改正は実現した。これからのロシアはどうなるのか。

 確かなことは、勤め先で投票させるやり方は、今後の選挙で普通の風景になるだろう。クレムリンにとって、これほど効率の良い投票方法はない。国民が政治に対し意思表明をすることができなくなれば、政権と国民の間に信頼関係は生まれない。この場合、政権にとって頼れる組織は、軍と治安機関になるだろう。

 そして、野党や、政権に対し十分に従順でないエリート、わずかに残った独立系メディアやNGOに対する抑圧が強まるだろう。

 プーチン大統領は3日、憲法改正準備実務者グループのメンバーと会談した。この席上で、ロシア女性連盟のエカテリーナ・ラホワ会長は「市販されている棒アイス『ラドゥーガ(虹)』の虹模様は、非伝統的価値観のプロパガンダであり、子供たちに悪影響を与えている」と、大統領に苦情を申し立てた。つまり、棒アイス包装の虹模様のデザインは性的少数者のシンボルだとして、やり玉に挙げたのだ。

 テレビでこのやり取りを見た多くの人々は「何を馬鹿なことを」と一笑に付した。しかし、ソ連時代の共産体制下を生きた経験を持つ世代は、メディアがこのやり取りを流したことに恐怖を感じた。

 ソ連時代、政府は抑圧する対象を定めると、どうということもないことを悪だとレッテルを張り、圧倒的なプロパガンダで押しつぶしてきた。今回は性的少数者、それでは次は誰だ。

 改正憲法が発効し、北朝鮮外務省から祝辞が届いた。そして、欧州最後の独裁者と呼ばれるベラルーシのルカシェンコ大統領がモスクワを訪問した。これら同盟国と共に、ロシアはプーチン大統領の終身独裁という時代を迎えるのだ。