総合ミサイル防衛体制強化を 元防衛相 中谷元衆院議員

インタビューfocus

元防衛相 中谷元 衆院議員

 河野太郎防衛相は先月、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画断念を発表した。近年ミサイル技術の高度化を進める北朝鮮や、尖閣周辺で強硬姿勢を続ける中国などの脅威が増す中、敵基地攻撃能力についての議論も始まった。日本はどのように対応していくべきか、元防衛相の中谷元衆院議員に聞いた。(聞き手=社会部・川瀬裕也)

元防衛相 中谷元 衆院議員(なかたに・げん) 1957年、高知県高知市生まれ。防衛大卒、元陸上自衛官(2等陸尉、レンジャー)。90年、衆院議員初当選。防衛庁長官、防衛大臣などを歴任。現在、自民党中央政治大学院長。当選10回。

元防衛相 中谷元 衆院議員(なかたに・げん) 1957年、高知県高知市生まれ。防衛大卒、元陸上自衛官(2等陸尉、レンジャー)。90年、衆院議員初当選。防衛庁長官、防衛大臣などを歴任。現在、自民党中央政治大学院長。当選10回。

「イージス・アショア」配備計画断念をどう評価するか。

 よく決断した。「イージス・アショア」の配備は当初、1基800億円だったものが、2基で2474億円になり、30年間の維持費を含めると5000億円以上になる計算だ。巨額な経費が防衛予算を圧迫している。またイージスシステムは、弾道ミサイルには対応できるが、不規則な飛び方をするミサイルや、飽和攻撃には対処できないということが分かっている。移動式発射装置(TEL)で撃ってくる場合、発射の予測も困難となる。一度立ち止まって見直しをするという意味で良い見極めをした。

日本の防衛に穴が開くとの指摘もある。

 レーダーとコンピューターと発射台をそれぞれ切り離して最適の場所に設置し、リモートで連携を取る「エンゲージ・オン・リモート(総合ミサイル防衛構想)」体制の強化が必要だ。情報収集用レーダーと、計算コンピューター、迎撃ミサイルを撃ち出すランチャー(発射装置)、それぞれを強化すれば離れていても、非常に厚いミサイル防衛網になる。

 米軍では既に「NIFC-CA(ニフカ)」という、航空機で敵を察知し、イージス艦で計算して、別の船や戦闘機から攻撃する体制が整っている。このような体制の準備を加速させるべきだ。

敵基地攻撃能力の保有についてどう考えるか。

 憲法上は既に可能だ。昭和31年に鳩山一郎首相(当時)が「わが国土に対し、誘導弾などによる攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨だとは考えられない」と国会で答弁している。日本の存亡に関わる場合は、ミサイルの発射も可能であるということだ。

 確かに、専守防衛ということで、戦後の防衛政策では、武力攻撃を受けた時はじめて武力を行使できる。その対応も自衛のための最低限にとどめ、武器の保有も最小限にしなければならない。

 しかし、「国防上、相手国の中でも個別的自衛権が使える」という国会での答弁もあるように、自衛のための反撃能力を持つことは可能であると言える。宇宙、サイバー、電磁波という多次元の分野での検討も必要となっている。これらの論点整理をし、年内を目標に議論を進めていく。

周辺国によるミサイルの脅威が高まっている。

 北朝鮮は体制維持のために1997年ごろから「テポドン」などのミサイルを飛ばすようになった。日本の北陸・東北地方を越えて太平洋に落下したが、それ以降も日本上空を通過するミサイルを実際に撃ってきている。最近では低高度弾道ミサイル「イスカンデル」や、極超音速滑空弾など、非常に高度な飛び方をするものを開発している。つまり北朝鮮は、日本のミサイル防衛網の穴を掻(か)い潜(くぐ)るような研究をしてきている。

反撃用の非核長距離ミサイル必要

 一方中国は、アメリカとソ連(当時)が「INF(中距離核戦力)全廃条約」(1987年)という条約を結んでいた間、大陸間弾道ミサイルを大量に装備して、軍事パレードなどでその威力を誇示してきている。これをもって台湾や南シナ海、香港などに政治的圧力をかけている。日本の尖閣諸島も、以前は全く中国公船が来なかったが、この10年間でかなり増えて、今も毎日のように接続水域に留(とど)まり出ていかない。それどころか日本の漁船を追尾するまでに至った。日本としてしっかりと防衛体制を築くと同時に、抑止力をもって対抗しなければならない。

非核三原則の見直しが必要との声もあるが。

 一つの課題だ。日本は唯一の被爆国であり、核に対する拒否感は強い。そういうものは日本として大切にしていかなければならない。三原則の中で「持ち込ませず」については以前からさまざまな議論がなされてきた。しかし抑止力を持つ上において、相手側の核を撃たせないためには、こちらの反撃する能力はどうあるべきかを考える必要がある。

 アメリカは近年、中距離弾道ミサイル、特に中国の核抑止についてどうすべきか検討している。今後この点について日米の拡大抑止を考えていかなければならない。ただ、日本国内に米国のミサイルを置くことはかなり抵抗感があるだろうから、自分の国は自分で守るという見地で、日本が保有し管理する、日本独自の反撃用の非核長距離ミサイルを持つべきだ。

尖閣諸島で中国が強硬姿勢を見せている。

 今は海上保安庁が先頭に立ち対応している。しかし今は「目には目を」の時代ではない。ロシアのウクライナ侵攻のように、ハイブリッドで目に見えない形で侵攻してくる。例えば偽装の漁民が来た場合は自衛力を行使できない。まずは警察と海保で排除することになる。それでもできない場合、自衛隊が防衛出動する。このように段階を追って対応し、自国の領土を守っていく体制はできている。

 しかし、中国側の「海警局」は軍事組織ではなく警備組織だが、いざとなったら海軍のコントロール下に入る。そのため船体の数や能力を強化してきている。海保も巡視船の大型化や武装化を進めて、それに負けないくらいの態勢と能力を持つべきだ。

憲法改正の観点から、今後の日本の防衛整備をどう進めるか。

 最大の問題は、自衛隊をどう位置付けるかである。いつまでも「軍隊ではない」と腫れ物に触るような従来の延長線でいいのか。日本の周りは軍事大国だらけ。その中で日本が対応していくには国家防衛戦略および国家軍事戦略の策定が不可欠だ。その大元になるのが「自衛隊とは、軍隊なのか」ということ。

 軍隊の無い国はない。国を守る組織を「軍隊」と呼ぶ。そのため、自衛隊を位置付けるための憲法改正は必要だ。日本の防衛は自衛隊が行う。在日米軍はあくまでも支援する立場だ。自衛隊が行動しなければ米軍は動かない。自衛隊がしっかり動ける体制を作っていかなければならない。日本には軍事司法制度がないため、軍事裁判所がない。他にも、国家緊急事態条項、動員制度、叙勲制度、恩給など、国家として軍事関連事項の議論と検討をする時期に来ている。

 情勢が日々変化する中、特に米中の狭間で日本はどういう立場を選択し、両国との関係をマネジメントしていくのか。この「新冷戦」の深化に伴い、日、米、豪、印、台湾、韓国、欧州、ASEAN、太平洋の島嶼(とうしょ)国などと、国際的な連携を強化すべきだ。自由で開かれた国際秩序と公正なルールを模索するため、新たな国際協調の在り方を考えていかなければならない。

台湾と安全保障上の交流は必要か。

 われわれが共通して守らなければならないのは、自由と民主主義だ。自由を守っていくための連帯的な運動が必要。台湾は日本と海域が繋(つな)がっており、台湾の安全保障は、日本にとって他人事(ひとごと)ではない。台湾へのコミットメントを格上げしていくべきだ。日本も「台湾カード」を持って中国を牽制(けんせい)すべきである。政府高官や幹部自衛官などを台湾交流協会に派遣し、意見交換や交流をしていくべきだ。