「コロナ戦争」渦中のロシア

日本対外文化協会理事 中澤 孝之

外出禁止措置に反対デモ
軍特殊部隊は医療施設を建設

中澤 孝之

日本対外文化協会理事 中澤 孝之

 昨年末以来、世界はまさに第3次世界大戦ならぬ「コロナ戦争」の最中である。4月末現在、新型コロナウイルス感染による全世界の死者が21万人に達し、米国だけでも5万人を超えた。ロシアも例外なく、この戦争に巻き込まれた。

 ロシアでコロナ感染者が確認されたのは、1月31日でザバイカリエ地方およびシベリアのチュメニ州でそれぞれ1人、計2人の中国人であった。コロナ発生地中国との国境周辺ではいち早く国境封鎖や人的交流制限の措置が取られたが、その後モスクワ、サンクトペテルブルクなど主要都市を中心に、欧州諸国からの帰国ロシア人の増加や欧州各国人との交流などが原因となって、徐々に感染者が増えた。

感染拡大の気配衰えず

 ロシアの全国コロナウイルス感染拡大対策本部の発表によれば、コロナ感染者は4月30日現在、過去24時間の増加数が7099人で、過去最高を記録した。これで累計10万6498人と10万人を超えた。感染による死者は101人増えて1073人。これらの数字は断トツの米国はじめスペイン、イタリア、英国、フランスなど欧米諸国に比べると少ないが、まだピークには達しておらず、感染拡大の気配が衰える様子はない。日本外務省が4月24日、ロシアを感染症危険情報レベル3の「渡航注意勧告」の国に含めたのは、やや遅いくらいだ。

 コロナ感染拡大を防ぐためにロシアでも、政府は感染者や死者の多いモスクワはじめ全土に外出禁止措置を4月末まで導入していた。モスクワを含め地域によってはこの措置に違反した場合、罰金が科せられる。ところが、こうした措置に反対する住民のデモが発生した。ロシア南部、北オセチア共和国の人口31万の首都ウラジカフカス(旧オルジョニキーゼ)で4月20日、政府庁舎前などで外出禁止措置の撤廃や共和国首脳の辞任を要求する市民約2000人(当局発表では約200人)が集まった。ロシアの人権擁護監視サイトによると、69人が治安当局に拘束されたという。政府は4月28日、非労働(外出禁止)期間を5月11日まで延期すると決めたが、この措置が長引けば、失業やストレスなど生活への支障から住民の不満が募り、こうした不穏な動きが各地に広がる恐れがあるため、当局は警戒を強めている。

 医学研究先進国の一つロシアでも、特効薬やワクチンなどの研究開発が進められている。ロシア科学アカデミーの専門家によると、コロナ治療薬として用いることができる3種類の新薬の開発に成功した。そのうちの一つはコロナもその一種であるRNAウイルスによる感染症の治療薬として開発された「ファビピラビル」を合成して作られ、3月末、臨床試験に回された。

 この「ファビピラビル」は今、世界各国から注目されている日本名「アビガン」である。「アビガン」は富山大学医学部の白木公康名誉教授と富山化学工業(現富士フイルム富山化学)が共同で開発した抗インフルエンザ活性剤で、副作用もあるが、「タミフル」よりも強い治療効果を発揮するといわれる。そのほか、ロシア連邦医療生物学研究生産センターは中国とフランスでの実験調査から、抗マラリア製剤の「メフロキン」をベースにコロナ感染治療用のスキームを開発したという。

イタリアに軍専門医派遣

 また、「コロナ戦争」では、米英両国にも存在するといわれ、戦時の細菌戦に備えて創設されたロシア軍特殊部隊、「放射線・化学・生物学防護部隊」の出番だ。この部隊はカリーニングラードからカムチャツカまで全土で予定されている新しい医療センターの建設に取り組む。まずニジニ・ノブゴロド[旧ゴーリキー]で3月に着工した。そして、部隊の専門医たちは、イタリア北部に3月22日から派遣され、アフリカで1976年6月初めて発見されたエボラ出血熱の現地治療での経験を踏まえて、コロナのパンデミックと戦っているが、その任務が終われば、国内各地の新医療センターに配属され、治療に当たる。ロシア政府はこの新医療センター計画に88億ルーブル(約1億1500万ドル/約123億円)の予算を当てているという。(4月30日記)

(なかざわ・たかゆき)