郷土愛育み、Uターン促す 新潟県新発田市
新潟県新発田市長 二階堂馨氏
越後平野(新潟平野)の北部に位置し、県都新潟市に隣接する阿賀北の中核都市である新発田市では「住みよいまち日本一 健康田園文化都市・しばた」をスローガンに掲げて地方創生、少子化対策に取り組んでいる。同市の取り組みについて二階堂馨市長に聞いた。(聞き手=佐藤元国)
輸出で米のブランド化目指す
未満児保育の完全無償化検討
少子化対策への取り組みは。

にかいどう・かおる 昭和27年、新発田市生まれ。昭和48年、拓殖大学政経学部中退。昭和54年、新発田市議会議員初当選・以来当選8回。平成22年12月1日、新発田市長就任。現在まで3期連続で市長を務める。
まずは、待機児童をゼロにした。新発田は少しずつ人口が減っているが、世帯数は増え核家族化が進んでいる。生活していくために共働きをする世帯が増え、子供を保育園に預ける需要が高まっていたためだ。
また、第3子以降の保育料の無料化、中学生までの医療費の無料化などにも積極的に取り組んだ。今後は、保育料の完全無料化を未満児(3歳未満の子供)まで含めて行おうと考えている。未満児保育を無料化することは難しいが、まずは2歳児から無料化し、次に1歳児と段階を踏みながら完全無料化を目指したい。
どのような効果が出ているか。
新発田市の第3子以降の割合は、平成27年度19・4%で、国の平均16・5%より約3ポイント高くなっている。また、近隣地域の子育て世代の人たちが新発田を選んでくれるようになった。
今は、道路が整備され、距離は同じでも通勤等の時間は短くなった。すると居を構える条件は、父親の勤め先の場所ではなく、子供の育てやすさや教育などが重要になる。また、人口減少問題対策の根幹は教育であると考えている。
その教育の取り組みは。
これまで小中学校共に全国学力・学習状況調査では全国平均より低かったが、学力の向上に取り組み小学校は数年前から全国平均を超え、中学校も全国平均に肩を並べた。それも続けるが、加えて「しばたの心・継承プロジェクト」という取り組みを始めた。
現在、よく国際化が叫ばれているが、国際人となる入り口は、自分の街を知り、故郷を愛することと言われている。また、首都圏で暮らす新発田市の若者と交流して、それほど故郷に愛着がなく、使命感がないと感じた。
そこで新発田という街、偉人、歴史を学んでもらい、社会に出て「おまえの故郷はどんな所だ」と聞かれた時、堂々と自分の街はこんな街だと答えられる人になってもらいたい。
新発田藩は、溝口家が12代(約400年)続いたが、実はその間一度も一揆が起きていない豊かな街だった。そのため競争心が乏しいところはあるが、逆に言えば欲を押し通さない、豊かな人間性を持っている。人を蹴落としてまで何かしようとは思わない。
そうでありながら義には厚い。あの堀部安兵衛や大倉喜八郎もそうだった。そうした、欲を押し通さないが、義は果たす。「しばたの心」を受け継いでもらいたい。
そして自分は、新発田を出て大学進学し、就職するが、いつかは育ててくれた故郷に帰って何か貢献するんだ。あるいは父祖伝来の土地を守るんだと思ってもらえる。それこそが「しばたの心・継承プロジェクト」だ。
立場柄、企業や研究所、有名大学を誘致しろと言われるが実現は難しい。だが、子供たちに郷土を愛して、帰って来てもらえる土壌を育むことはできる。
地方創生への取り組みは。
観光を産業のエンジンにしようと思っている。新発田には、ナンバーワンのものがない代わりに、何でもある。名山と言われる飯豊山があり、名城100選に選ばれる新発田城がある。月岡温泉や海もあり、観光の素材となるものは十二分にある。それらを上手(うま)く調和させることができれば、オンリーワンになれる可能性がある。
そこでインバウンドと、モノのアウトバウンドに取り組んでいる。インバウンドでは、まず下越地域の宿泊施設となる月岡温泉を集中的に支援し、観光客を集めようと戦略的に取り組んでいる。
アウトバウンドでは、米の輸出に取り組んでいる。現在、台湾、シンガポール、香港、ハワイ、ニューヨークに輸出し、来年はベトナムにも進出できることになっている。米の輸出量は今年度で約270㌧ほどになった。
輸出に拘(こだわ)るのは、ブランド化したいからだ。新潟県内で米のブランドは最上位にいる魚沼米が絶対で、その次が佐渡米、岩船米だ。それ以外は一般新潟米でしかなく、このカテゴリーから逃げられない。だが、土作りから拘っている新発田の農家の米は本当に美味(おい)しく、味でも決して負けていない。
しかし、外国ならコシヒカリというブランドはあっても魚沼産、佐渡産などは関係ない。輸出する米は、新発田内で米のコンテストを開き、上位者にだけ輸出をする権利を与える形で、品質に拘ってブランド化している。
それには、販売の多様性を確保するという側面もある。農協などによる国内販売、一辺倒だと作柄により価格は乱高下していた。しかし、外国への輸出米は、輸出用米としての補助金や旺盛な需要から、非常に安定しており、国内価格の安定化にも寄与できる。そして農家に多様な販路の選択肢を与えることが、自立した農業経営にもつながると考えている。]