三世代同居定住者に補助金 佐賀県神埼市
佐賀県神埼市長 松本茂幸氏
佐賀市に隣接する神埼市は福岡まで電車・車とも1時間圏内にある利点を生かし、人口減少への対策として、三世代同居への補助金を整備し、定住促進に取り組んでいる。松本茂幸市長に聞いた。(聞き手=岩崎 哲)
規範教育で「四か条の誓い」
特産品開発で地域活性化
少子高齢化への取り組みは。

まつもと・しげゆき 昭和25年、佐賀県神埼市生まれ。同51年東洋大学法学部卒業。同44年神埼町役場奉職。平成17年3月神埼町長に就任。平成18年3月神埼町、千代田町、脊振村が合併し神埼市に。同18年4月初代市長に就任、4期目。
少子高齢化で問題なのは、人口は減っているのに世帯数は増えていることだ。つまり家族数が減っている。13年前の合併時には世帯人数は平均3・2人だったが、現在2・7人を下回る。他の自治体でも同じような傾向だろう。
介護認定が厳しくなっており、介護施設も造ろうという方向ではない。代わりに在宅介護が推進されている。しかし、家族がいなくなったのに誰が在宅介護をするのか。老老介護しなければならないし、独居老人の問題もある。民生委員などの負担がますます増えている。
また、最近の傾向として、いじめのニュースなどに見られるように、子供が非常に粗暴になっている。礼儀や人の道を知らない。同時に虐待など親の問題も出てきている。こういう問題をどうにか解決しなければならない。
その思いで「神埼市四か条の誓い」を作った。「交通ルールがあるように学校や社会にも規範(ルール)がある」として、五恩返し、礼儀、きまり、思いやりの心を子供たちに身に付けてもらおうと定めた。ちなみに「五恩」とは父母の恩、先生の恩、地域の恩、友の恩、自然の恩だ。今年からこれに協調心の必要性を加えている。
こうした考え方を踏まえて現在取り組んでいるのが、同居世帯への支援だ。確かに四世代・三世代同居には大変なことも多い。しかし父母が仕事の時、祖父母が孫の面倒を見られる。親が働いている姿を見せるべきだ。四か条の最初が「親の恩」だが、これは祖父母が教えてやらなければならない。
高齢者も少し体が弱くなっても介護認定を受けて施設に行くのでなく、自宅で面倒を見る在宅介護も可能になる。それが四世代、三世代同居を勧める理由だ。
具体的な支援策としては。
4月から新たな取り組みとして、新築などの住宅取得時に補助金が交付される「定住促進住宅取得補助金」に三世代同居等の加算条件をさらに追加した。条件が揃(そろ)えば100万円以上の補助となる。また、市内で三世代等が同居・近居するためのリフォーム工事に最大50万円の補助金が交付される「三世代・新婚世帯同居等促進住宅リフォーム支援事業」も実施しており、どちらも既に多数の申請を受けている。
地域活性化への取り組みは。
地元特産品を開発している。神埼では菱(ひし)の実が採れる。これを使って焼酎と菓子を開発した。菱を使った焼酎は珍しく佐賀県原産地呼称管理制度認定酒にも選ばれている。また菱には抗酸化作用、高血圧予防などに効くポリフェノールが含まれており、醸造に使った後の菱の皮を再利用して、神埼市菓子組合が西九州大学と共同開発し「ひしぼうろ」という菓子を作って販売している。
「かんざき暮らし」というのを提唱しているが。
市の第2次総合計画では健康寿命を延ばすということを進める。幸せに感じるとは何か、健康であることだ。子供を心身共に健全に育成する。
そのため人の活動の基礎となる食事、運動、学習の3要素を支援して、健康寿命を延ばす努力、成人病対策を行い、幸福感を持って暮らせるように支援している。「どうして神埼は成人病が減ったのだろう」と言われるようにしたい。
「夜の市長室」を行っているが。
平成18年から続けてきた。休んだことがない。第1火曜日に実施している。初めは苦情や要望が多かったが、夜の市長室は解決するためのものではなく、私だったらこうやるというアイデアを出して議論していく場だ。住民自身が解決策を考え、行政がそれを助ける。
考えに影響を受けたものは。
役所で相談室を7年ほど担当した。法律を知らなければ最終的にアドバイスができないことを痛感し、東洋大通信部の法科で学んだ。卒業式の後に通信制卒業生はレセプションをしてもらうが、磯村英一学長(当時)の隣に座らせてもらった。「松本君は役所だな。法科だな。仕事で法律を使うな、人間的に処理しなさい」と言われた。
いい先生に出会っている。巡り合う人に助けられている。感謝している。自分の力ではない。人のおかげでやらせてもらっている。