理想語る力無くなった共産党 筆坂氏
筆坂元日本共産党ナンバー3と田村自民党政務調査会審議役が対談(8)
行き詰まり原点に戻れと主張 田村
筆坂 共産主義社会は理想社会なんだ。何の悩みもない。社会主義の中で、欲とかが削(そ)がれていき、みんな良い人ばっかりになるってことを書いている。そんなことあり得ないでしょ。ユートピアだ。しかし、ユートピアというのはある魅力を持つ。若者を引き付けていく力がかつてはあった。しかし、今の共産党に理想を語る力はない。
僕が党に入った時は、ソ連や中国があり、実態は分からないけれども社会主義で、これこそ進歩、発展の方向だというものがあった。北朝鮮だって地上の楽園だと言っていたくらいだから。ソ連ならどんなだろうと。小林多喜二の『蟹工船』にも、いかにソ連が素晴らしいところかということが前提に書かれている。小林多喜二も実際のソ連を知らないから人を引き付ける力があった。ソ連を見てみろ、女性もトラクターに乗っている、これは男女平等が実現しているからなんだと。社会保障は行き届き医療費も無料だ。素晴らしい国だ。こう語れたわけだ。しかし、今はもう語れない。だって、資本主義から社会主義ではなくて、社会主義から資本主義になっているんだから。
僕が入党した時と真逆だ。中国を見たってそうだ。そうすると社会主義を語れなくなった。社会主義を語れない共産党なんて、理想を語れない共産党ということなんだ。だから、若者が入らなくなった。
今世紀は「前進」を目指すだけか
一度、蟹工船ブームが叫ばれたことがあった。産経新聞は心配して、「共産党に若者が続々入っているらしい」と。そんなわけがないじゃないか。共産党に入って何をするの。消費税反対。そんなものは共産党に入らなくてもできるだろう。社会主義を作ろうというから共産党に入る。共産党に入るということは、世間からは差別されることや、出世できないことを覚悟しなければならないんだ。そんな自己犠牲の活動をなぜやるかというと、大目標があるからだ。
だけど、今は大目標がない。昔の綱領は、「社会主義革命が起って、第1の段階では、能力に応じて働き、労働に応じて受け取る。もう一段進んで高い共産主義の段階になると、能力に応じて働き、必要に応じて受け取ることができる社会になる」と書いてあった。「搾取は一切無くなる」と。しかし、今の共産党の綱領にはそんなことは書いていない。意味不明だ。
まずこう書いてある。「発達した資本主義の国での社会主義・共産主義への前進をめざす取り組みは、21世紀の新しい世界史的な課題である」と。21世紀はあと84年もあるが、まだ「社会主義への前進をめざす」だけ。革命は22世紀の課題ということだ。そんなの目標と言えるか。だって、日本共産党ができた1922年に、100年後に社会主義を作ろうと誰が言ったか。日本でもソ連と同じように労農革命を起こせるんだと思ったから、すぐ実現できると思ったから、みんな治安維持法に弾圧されながら命を懸けた。今は、100年後だ。それだって、その入り口に立とうっていう話だ。
生産手段の社会化を説明できぬ
じゃあ、その社会主義はどんな社会主義なのか。生産手段を社会化するという。「その所有・管理・運営が、情勢と条件に応じて多様な形態をとりうるものであり、日本社会に相応しい独自の形態の探求が重要である」と。何のことか分からない。生産手段の社会化というのはどうすれば良いか、共産党自身も全く分からないということだ。そして、取って付けたように「国有化や集団化の看板で、生産者を抑圧する官僚専制の体制をつくりあげた旧ソ連の誤りは、絶対に再現させてはならない」と書いてある。
田村 ソ連を批判されると、今までソ連を美化していたのを今度は独立路線だったと来るわけだ。最近は、自主独立の闘いを通じて何を言いだしたかというと、「マルクス、エンゲルスの本来の姿が生き生きと蘇って21世紀のわが党の綱領に結実しました」と言う。結局、マルクス、エンゲルスで行くわけ。だから、今の経済を考えた場合、マルクス経済学でこれから日本は良くなると思ってやっているわけだけど、21世紀は社会主義の時代だというのは言わない。そういう意味では、結局、ソ連も北朝鮮も参考にするのがなくなったから、原点に戻ってマルクスだと言っている。
不破さん自身が分かっていない
筆坂 だから、困っているわけだ。不破哲三さんが知恵を絞ってこれしか書けないんだから。自分でも何を言っているか分からない。どうなるか分からないということ。どっちにしたって共産党だから一応書いている。